小豆洗い
2018/11/20
友人の話。
山中の高速道路を走っていた時のこと。
腹の具合が悪くなった彼は、
最寄りのサービスエリアでトイレに行くことにした。
無事にトイレに駆け込み、
ホッと一息吐いていると。
しょりっ しょりっ しょりっ
すぐ近くから、
何かを混ぜるような音が聞こえてきた。
ゆっくりと米か何かを研いでいるかのような音。
自分の他には、誰も居なかった筈だけど。
後から誰か入ってきたのかな。
それにしても妙な音を立てるな、
何をしているんだろう?
個室のドアを開けて出ると、
音はパタッと止んだ。
トイレには人っ子一人居なかった。
背筋が冷えた。
思わず個室を一つ一つ覗き込んでみた。
どの個室も、白い和便器が座っているだけ。
立ち竦んでいると、
どこからか再び「しょりっ」と聞こえてきた。
ゆっくりと手洗いに向かい、
出来るだけ落ち着いて手を洗う。
鏡に自分以外は何も映っていなくて、
本当に安堵した。
彼がトイレを出て行く時も、
音は聞こえていたという。
仲間内でこの体験を話してみると、
事も無げに言われた。
「あぁ○○のSAでしょ?
あそこって小豆洗いが居るよね。
何人からか話を聞いているよ。
SAが出来る前は近くの集落の小川に出ていたらしいけど。
人が沢山来る方が、小豆洗いも張りがあるのかもな」
運が良いなあ、と羨む仲間を尻目に、
「妖怪って奴ァ昼間っから出るものなのか?
どっちにしろトイレで研いだ豆なんざ、
俺ァ口にしたくはないね」
彼はそう言って仏頂面をした。