鍋島君の話
2018/11/20
小学六年の時の話です。
給食の時間って放送委員の奴が、
生徒からのリクエストで、最新のJポップを流したり、
お便りコーナーを生でやっていて、
ちょっとしたラジオ番組みたいのを、
うちの学校は、やっていたんですよ。
当時、うちの学校は、
放送室からテレビ放送もやりだしたんですよ。
その日の給食を、皆より早めにバクバクと食べ、
放送室へと向かう、級友の鍋島君の後ろ姿が印象的でした。
ピンポンパンポ~ン
軽やかな音楽と共に、給食時間中の、
教室のテレビがつけられました。
「あっ!鍋島だ!鍋島がテレビに出てるよ!」
なにとぞ小学生なもんだから、
それだけで笑えるんですよ。
鍋島「みなさん、こんにちは!今日、お昼の放送を。
僕、六年一組の鍋島が、読ませて頂きます!」
放送がはじまった。
放送がはじまって、しばらくすると誰も放送を聞いていなく、
班の人達と他愛のないオシャベリをしながら
ガヤガヤと賑わって給食を食べていました。
ちなみに、その日の給食のメニューは
ミートスパゲティーに、野菜とリンゴをマヨネーズで和えたサラダに、
パンに、牛乳でした。
なぜ、僕がこんなに詳しく覚えているのか?
皆さん、気になる方もいらっしゃると思いますが。
実は僕は、その野菜とリンゴをマヨネーズで和えたサラダが嫌いだったんです。
マヨネーズは好きなんですけど・・
リンゴをマヨネーズで和えるって想像するだけで、
オエッてなりますよ。
鍋島「次は〇年★組の@§#さんからのリクエスト大江千里で
[かっこ悪い振られ方]です。」
なぜ、歌まで詳しく覚えているかというと、
その日あったことが、あまりにも強烈だったもので・・・
テレビ画面と教室の壁にあるスピーカーから
「か~っこ悪い、ふられかた~きみに二度と会わな~い」
と、大江千里の新曲が流れだしました。
画面には、鍋島君が映っています。
大江「大事なことは~いつだあって~ボーー・・ッテ
別れてはじめて~ボーー・・ッテ気が付いた~」
「スピーカーの調子が悪いんだよ」
っと誰かが言い出しました。
画面の鍋島くんは、かなりカメラ目線で、座っています。
まあ、なんとか聴けるから、
そこまで僕は気にしてませんでした。
実際、大江千里なんて知りませんでしたし、
どうでもよかったのです。
でも、なんとなく
もう一回、画面を観たら鍋島君の硬い表情が、
なんだかワナワナしてるんですよ。
いまにも、泣きそうな
耳なんか、真っ赤なのがわかるくらいに。
そのことに、何人か気付いて
「おい!鍋島が泣きだしそう!」
その時は、鍋島君は泣いてましたね。
鍋島君は、あまり泣かない奴なんで、
めずらしいんですよ。
みんなニヤニヤしながら
「鍋島、歌聴きながら感動して泣きようぜ!」
僕もニヤニヤしながら画面を観ていたら、
なんだか鍋島君の横にモヤみたいなものが、
見え隠れしてるんですよ。
みんな、気付いてないけど。
なんだろ?と思って、ずっとそのモヤをみていました。
歌の合間のボーッテも、だんだん荒くなってくるし。
皆は、まだ気付いていません。
どうやら、本当に僕だけしか気付いていない様子なんですよ。
俺は、クラスでも目立たない分類なもので
画面に、モヤがうつってるとかは誰にも言えませんでした。
すっかり泣きまくってる鍋島が画面には映っていて、
クラス中は笑いの渦。
大江千里の歌も、あいかわらず、ボーボー言ってるし。
それでも、画面を凝視していると・・
どうやら人の形みたいに見えてきました。
ただ、やたらデカイ!
見間違えかなあっと思いながら観ていると、
そのモヤは鍋島君の、
頭のうえに上下運動してるようにみえてきました。
僕「(なんで、誰も気付かないんだよ?
あんなに、はっきり見えてるじゃないか)」
僕には霊感はありません。
クラスメートに田代さんと言う、
太めでお世辞にも可愛いとは言えない、
オカルトな女子がいて
そいつは、よく
「そこに霊がいるから、私が追い払ってやる」
とか言って、訳の分からない呪文みたいのを言ってるわりには、
気付いていない様子。
僕「(あれ?あんなにはっきり見えてるのに田代さんは、
なぜ何も言わないのか?)」
画面には泣きじゃくる鍋島くんと、
老婆のような、赤ちゃんのような
訳のわからない形のモヤが
鍋島くんの頭付近を上下運動しています。
僕は観るのが、怖くなってきて、とうとう
田代さんの席まで移動しました。
僕「田代さん。」
田代「なに?(なんか怒りながら。どうやら僕を嫌ってるらしい。
こんな女子にまで嫌われてる僕も辛いんだけど)」
僕「田代さん霊感あるんだよね?」
田代「は?あんたに関係ないだろ?」
っと罵倒されました。
しかたなく僕はスゴスゴと、自分の席に戻り
お昼の放送が終わるまで画面を観ないように、
観ないようにして、過ごしました。
放送が終わりました。
皆、食べおわった、
給食の食器を配膳台の上の食器入れに直しています。
ちなみに、うちのクラスでは、
もし自分の班で食べ終わらない奴がいたりすると
班責任で昼休みはなくなります。
案の定、僕は嫌いな野菜とリンゴをマヨネーズで和えたサラダを食べれなく、
班の人達が僕を睨みながら
「早く食べろよ!!」
とか怒っています。
僕は、オエッと吐きそうになりながらも一生懸命口の中に、
サラダを詰め込み牛乳で一気に流し込みました。
これで、なんとか班の皆も昼休みになりました。
口の中の後味も、悪いんだけど、
僕は鍋島くんが、すごく気になっていました。
昼休み、鍋島くんは戻ってきませんでした。
五時間目になっても、
鍋島くんは戻ってきはしませんでした。
皆、鍋島くんが帰って来ない事の話で持ちきりです。
教室に担任がはいってくる。
クラス委員「起立!気を付け!礼!着席!」
五時間目がはじまりました。
先生「え~鍋島くんは具合が悪いから今、保健室に居ます。
鍋島くんのお母さんが迎えにくるので、隣の席の小国さん、
鍋島くんのランドセルに机の中のもの入れてくれるかな?
お母さんが直接、教室に取りに来られるそうだから。」
小国さん「はい」
小国さんは鍋島くんの机の引き出しをあけた。
小国さん「キャァァァァァァァァァア!」
叫び声が教室中響き渡った。
なんと、机の中にはクラスで飼っていて、
居なくなったハムスターの死体と、
メダカ二匹の死体がはいっていたんです。
女子はキャーキャー言って泣きだす子もいました。
女子は教室の端っこに逃げてしまい、
男子は鍋島くんの席にワラワラと集まりだしました。
もちろん、僕も怖いもの見たさに、みに行きました。
机の引き出しはオレンジ色で、
皆さんの中にも小学生の頃使っていた方も、
いらっしゃると思いますが
長方形の引き出しの中の右側に、教科書やノート
左側に筆箱が入っていて、几帳面な鍋島くんの引き出しは
綺麗に整理整頓されてました。
引き出しの真ん中のスペースに、
ハムスターとメダカの死体が。
ハムスターは、けっこう前に行方不明になってしまっていて、
でも机の中のハムスターの死体は、
そんなに腐ってなかったです。
実際、匂いもあまり無かった気がします。
慌てて先生が、テイッシュと空箱を持ってきて、
ハムスターとメダカの死体を箱の中に入れました。
鍋島くんは、
成績も優秀で生真面目な性格でした。
本が好きで、一週間に三冊は本を図書室で借り、
毎年読書感想文のコンクールで入選する程の文学少年でした。
また、休み時間には一人で机の上に将棋を置いて
将棋の勉強に明け暮れる少年でした。
だから、皆も先生も僕も
「信じられない」
といった感じだったと思います。
しばらくして、鍋島くんのお母さんが、やってきました。
先生と、鍋島くんのお母さんは、少し廊下で話して、
鍋島くんはすぐに帰ったみたいです。
ハムスターとメダカの死体は、メダカの世話をしていた僕と、
あと何人かで、校舎の裏庭に埋めました。
次の日からも、鍋島くんは学校に来ませんでした。
鍋島くんが学校に来なくなって一週間くらい、たちました。
先生にプリントを、届けるように、
鍋島くんと同じ町内に住む原田が頼まれていました。
原田は、僕の遊び友達です。
放課後
原田「鍋島家についてきてくれよ。俺、あいつ嫌いなんだよな。
この間の事もあるし。なんか怖いよ」
原田と僕は、鍋島の家にプリントを届けに行った。
ピンポーン
ドアが開いた。鍋島だ。
ずいぶん具合悪そうな顔してる。
なんだか痩せたような印象だ。
原田「これ。先生に頼まれたプリント」
鍋島「・・・・・。」
無言で、受け取る。
原田は、早く帰りたそうだが、
僕はこの間の事が気になっていたため、
鍋島に話しかけた。
僕「風邪大丈夫か?」
鍋島「(うなずく)」
原田は、嫌そう。
僕「あのさ、この間、鍋島くんがお昼の放送してた時に泣いていたのは、
画面にうつっていた横のモヤが怖かったんじゃないのか?」
鍋島くんは、ビックリして目を見開いた
原田「なんだ?モヤって?」
鍋島「ちがうよ!」
バタン!!ドアを閉められてしまった。
帰り原田は、怒りまくってた。
僕は鍋島くんの態度を見て、確信した。
けど、あまり散策するのも、よくないかと思った。
その晩。
鍋島くんから電話があった。
鍋島「昼、わざわざプリント届けに来てくれたのに、怒ってしまってごめん」
僕「別に、気にしてないからいいよ。いつから学校にくるんだよ?」
鍋島「・・・皆、僕の噂してないか?」
僕「ああ!ハムスターとメダカの事?」
鍋島「・・・」
僕「まあ多少、噂してる奴いるけど、
気にしなくても大丈夫だと思うよ。
ところで、なんで鍋島くんの机の中に
ハムスターとメダカの死体が、はいってたの?」
鍋島「・・・・」
僕「言いたくないなら別にいいんだけど・・。」
鍋島「絶対に誰にも、言わないと約束してくれるか?」
僕「言わない!言わない!」
鍋島「実はさ・・。お父さんがさ半年前から
家出したまま帰ってこないんだよ。」
僕「・・・」
鍋島「それでさ、漫画にのってた魔法をやれば、お父さんが帰ってくるとと思ってさ。」僕「・・・」
鍋島「それには生け贄が必要で・・
それで、ハムスターとメダカを使ったんだ。
身代わりか必要だから。それで、やってみた。
死体はその後、家の冷凍庫で凍らせてて・・
どこかに埋めようと思って、あの日引き出しに入れてたんだよ。
それでも、お父さんは帰ってこなくて・・」
僕「・・・」
聞かなきゃよかった後悔したよ。
小学生の僕には、後味が悪くなる話だった。
画面にうつっていたモヤの話は、あえてしなかった。
それからも鍋島くんは学校にこなかった。
今、僕は現在22歳。
鍋島くんも22歳になるだろう。
あれから、彼とは関わっていないが、
たまにスーパーや本屋でみかけたよ。
髪が、抜け落ちていて昔の、面影もなく、
挙動不振で廃人のようだった。
たぶん、社会復帰は無理だろう。