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女の影

2018/09/05

今から15年ほど前の中学時代の野球部合宿での話。
毎年、夏の合宿で使っていた宿が廃業し、その年から宿が変わった。
民宿でも、もちろんホテルでもなく、そこは公民館というか町営の集会所のようなところだった。
もともとは地元の豪農の屋敷だったという事で、つくり自体はかなり立派なお屋敷といった感じの建物だったが築100年にも届くかという古い建物で、着くなり俺らは、
「うぉ~!お化け屋敷や~!」
と大騒ぎだった。
まあ、見かけこそお化け屋敷に見えたが、中はすっかり改装されてたし、便所や風呂も同じ建屋の中に移築されてて、外見ほど不便でも怖い建物ではなかった。
初日の夜の事。
練習を終え、飯を食い、夜間素振りも終え風呂にはいってあとは寝るだけという時にそいつは現れた。
前後するが部屋について。
30畳くらいの大広間で三方は壁(隣の部屋へ行くふすまはあった)でっかい床の間もあった。(←このへんはあんまり覚えていないのだが)
その部屋へ通じる廊下は中庭に面しており部屋との間仕切りは障子だった。
中庭には部屋からみて遠い位置に常夜灯が灯っており障子を閉めると中庭の木々の影が障子に映しだされた。
消灯時間もせまり、さあ寝よかと廊下側(障子・中庭側)の電気だけ消した時だった、
「おい、あれ見てみ・・・?」
ふと、誰かが言った。
閉められた障子には木々の影・・・・・といっしょに、「女の影」が映っていた。
厳密にゆうと、髪の長い正面を向いた女の形にしか見えない影が映っていた。
「・・・・・まじで?」
とかなんとか言いながらもこっちには総勢二十数名の男(中学生だが)が揃っている。
「おるぁ~!!」
とか何とか、気合一発誰かが障子を開けた。
そこにはさっきまでと変わらない木々の生い茂る中庭の風景しか無かった。
あたりを見回すが、もちろん誰も居ない。
「・・・?」
誰もがクビをかしげた。
そしてそいつが障子を閉めて部屋は更に騒然となった。
そこにはやはり先ほどと同様の
「女の影」
が映っている。
それからは俺らによる検証が始まった。
閉めては女の影、開けては木々の風景・・・障子を開けたり閉めたりしては
「あの木が映って女に見えるんちゃうか?」
「・・・いや、形が全然ちがう!」
「そしたらあの灯篭が・・・」
「あほ、全然場所が違うやんけ~」
などとしばらくやっていた。
しかし、結局なにがどう映ってこんな完璧な女の形になるのかは判明せず、その影がウロウロ動き回るわけでもないのでだんだんみんな飽きてきた。
翌日の事を考えるといつまでも起きている訳にもいかず、そろそろ寝よかという事になった。
誰かが大広間の電気を全部消した。
電気を消しても相変わらず中庭の木々の影と「女の影」は別段変わりもなくそこに映っていたが、俺も疲れて次第に気にもならなくなり、ウトウトしかけた時だった、
「でじゅたすぴびゅりゃしんめちおぶちぜのちゃぶぉ~~~~~~~!!!!!!」
突然誰かが、もう何をいったのかさっぱり分からない絶叫を上げた!
みんな飛び起きて、
「どないしてん!なんやねん!どないしてん!」
とびっくりしてそいつに聞いた。
と、そいつは
「う、う、動きよった~~~~~~~!!!!!」
と絶叫した。
見ると、女の影が消えている。
そいつが言うには、なんとなくボ~っと寝ながら障子を見ていたら、女の影がそのまま横向きに体勢を変え横滑の感じで平行移動していったらしい。
それは人間だとすれば、小走り程度のスピードで・・・
気持ちが悪いのは、髪の毛も少しなびいていたという事だった。
そいつの話を聞き、部屋の中は一瞬凍りついた。
しかし俺らは信じるしかなかった。
現に女の影は、そこにはもう無かったからだ。
とにかく俺らはびびるだけびびった。
別の部屋に宿泊していた顧問の先生達の部屋にも、下級生を走らせ、今までの経緯から、たった今部屋で起こった事までを大騒ぎで説明させた。
恐がりの俺にしたらその瞬間を見ずにすんだ事は救いだったが・・・
そして・・・翌日、翌々日、その影は現れなかった。
先生も
「俺も見たい!」
ゆうて待機していたのだが、問題の障子には変に見慣れた木々の影が静かに映るだけだった。
そして俺らは帰った。
役場や地元の人々に、いわく因縁を聞くでもなく。
先生も鍵を返しに役場へと向かったようだが、あえてなにも聞かなかったらしい。(実際、先生はなにも見ていない)
帰ってからしばらくはその話題でもちきりだった。
もちろん影の正体は分からずじまい。
残念ながら、翌年から場所も宿も変更になったらしい。
後日談も何もなしだが、あの時のメンバーが何人か揃うと、未だに時々、
「ホンマ、あれはなんやったんやろう・・・?」
と話題に上がる。

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