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不可解な電話

2018/08/24

今年の一月の話。
実家に顔を出すと、旅行に行くから留守番してて、と頼まれた。
老いて仲の良い夫婦ってのはいいもんだな、まあ気をつけて行ってきてくれ、と送り出した。
なので家には俺一人。
正月飾りを早々に剥がして、雨戸も鍵も閉めっ放しで只管ごろごろしてた。
両親が出かけて二日後の夜。
二階の自室で子機の電話を使って友人とだらだら喋った後、子機を充電器に戻さず部屋に放置して階下へ。
居間でぼんやりテレビを見ながら、飯を食っていた。
午前1時を少し回った時、電話が鳴る。
こんな時刻に何だろう、まさか親父達に何かあったんじゃないだろうな、と不安になった。
ダイニングテーブルの横に置いてある電話のところに這っていく(足が痺れてたので)。
受話器を取る直前、あれ、何か呼び出し音が妙な感じじゃないか…と思ったが、とにかく取る。
受話器を耳に当てると、カリカリという乾いた音だけで、何も聞こえない。
「もしもし」
と何度か促したが、ずっと無言。
「なんだよ、無言電話かよ。しかもこの電話、まだ買い換えてねーのかよ…番号表示付いてないから不便だってのに」
などと思いつつ、ふと見ると、
「内線通話中」
のボタンが光っていた。
鳥肌が立った。
一旦受話器を耳から外し、二階で物音がしないか耳を澄ます。
何の気配も物音も無い。
と云うかどうなってんだコレ、戸締りはきちんとしてるし、空き巣だとしても内線かける意味が分からないし、故障か?相手の声が聞こえないのも故障のせいか?
混乱しながらもう一度受話器を耳に当て、
「どちら様ですか!」
と怒鳴る。
少し間を置いて、笑い声混じりの低い声が聞こえた。
「なあ、今、どこにいるの?」
本格的に怖くなり、ダッシュで玄関まで行き、鍵開けてドアも開け放した。
傘立ての傘を掴んで、二階への階段に続く廊下を睨む。
暫くそのまま待機してみたが、何も現れる様子は無い。
「すいません、誰か警察呼んで下さい!」
と何度か叫んでみたが、隣近所の家は皆出かけているようで、うちと同じように戸締りしてあった。
何の反応も無い。
更に少し待機した後、意を決して二階へ。
片手に傘、片手に革靴を持って階段を上がる(もし泥棒がいてナイフとか出してきたら、先ず靴を投げつけてから傘で突こう…とか合理的ぶったシミュレーションで正気を保ちつつ)。
部屋を一つずつ丹念に見て回ったが、誰もいない。
物が動かされた形跡も無く、窓も壊されていない。
電話の子機は、俺の部屋に、俺が放置した時の状態のままで転がっていた。
よし、誰もいない、取り敢えず安心…と思いかけ、電話がまだ内線繋がりっぱなしなのに気付く。
ここで子機を耳に当てて、またあの声が聞こえてきたらどうしよう、と半泣きになった。
少し迷った後、靴を置いて代わりに電話を持ち、
「もし泥棒がいて…」
と先刻と同じ事を考えつつ一階へ。
数分かけて念入りに見回った結果、誰もおらず。
電話も速攻で切った。
はい、以上。
いや、言いたい事は判る。
他の方々は死ぬほど怖いヤバイ場面に遭遇してんのに、俺は不可解な出来事ってだけだし。
どうせ俺はヘタレだよ。
まじで怖かったんだよ。
今思い出しても怖いんだよ。
両親が帰るまで電話線引っこ抜いたままでした。
「何度も電話したんだぞ!何やってんだ!おまえは意味が分からん!」
とえらい怒られました。

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