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ある泉の逸話

2018/08/16

うちの町内にある神社には、
”日本名水百選”
に選ばれた程の清水が湧き出る小さな泉がある。
週末ともなると、近隣だけではなく遠方からも評判を聞きつけて多くの人々がその清水を汲みにやって来る。
また、その水は飲んだり、患部にかけたりすることで病気やできもの、腫れものなどが直るとされる霊験あらたかな聖水としても知られており、そんなご利益を求めてやってくる人も少なくない。
だが、あまり知られていないが、その泉にはこんな逸話が残っている。
百年ほど前、泉の近くにある母娘が住んでいた。
気の毒なことに、娘には生まれたときから顔に醜い痣があった。
母親はそれをたいそう気に病んで、毎日のように昼となく夜となく娘を泉に連れて行き、その痣に泉の水をかけてやっていたのだが、いっこうに痣は消えなかった。
ある日、いつものように娘を泉に連れて行った母親は、突如何を思ったのか娘の顔を泉の中に沈めようとした。
激しく抵抗する娘の様子にも躊躇することなく、驚異的な力で母親は娘の頭を持って泉に沈め続けた。
騒ぎを聞きつけた近所の人が、急いで母親と娘を引き離そうとするが、それでも容易に離すことが出来ない。
自分だけでは埒が明かず、助けを呼びにその場を離れ、何人かを連れて急いで戻ってきた。
すると・・・
ふらふらとこちらに向かって歩いている母親の姿が目に入った。
母親は
「直った直った」
と叫びながら、泣き、笑い、そしてあとはなにやらブツブツとつぶやきながら歩いていた。
母親を捕まえて、人々が泉のそばに駆けつけてみると、娘は凄まじい形相で息絶えたあとだった。
だが不思議なことに、その顔からはきれいに痣が消えていたのだという・・・
この話は神社のほんの近辺にしか知られていない話である。
今でも、その泉には水を求めて多くの人々がやって来ている。

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