記憶退行
2018/07/21
俺が子供のとき、床屋で順番待ってるときに、置いてあった女性週刊誌で読んだ話だ。
ある、とても仲の良い若い夫婦がいた。
仮にダンナの名を健一、嫁さんを由美子としておこう。
彼らにはとてもカワイイ娘もいた。
まだ幼稚園に入る前で、年齢は3歳くらい(名前は「ゆかり」としておく)。
あるとき、由美子は、庭で洗濯物を干しているときに、急にめまいがしてきて、その場でぶっ倒れてしまった。
健一はそのとき会社に行っていたが、幸い近所の主婦に倒れているところを発見され、救急車で病院へ。
知らせを聞いた健一は急いで病院に駆けつけた。
「由美子!しっかりしろ、どうしちまったんだ!」
健一は由美子の手を握り締め、必死に由美子に呼びかけた。
「ママ、目を覚まして!」
娘のゆかりも父と一緒に呼びかけた。
すると、由美子はまもなくして目を覚ました。
起き上がると、健一とゆかりの顔を交互に見つめながら、こう言った
「ここはどこ?あなたたち誰?」
それを聞いて、健一はびっくりしたが、一時的に彼女の記憶が混乱しているのかと思った。
「俺はキミのダンナさんだよ」
健一は由美子に言った。
由美子は健一の顔をジーっと見つめていたが、やがて叫んだ。
「あ!あんた健一君ね?思い出した!」
良かった、記憶喪失になったんじゃなかったか。
健一は安心した。
続いて由美子は言った
「冗談じゃない、何であんたがあたしのダンナさんなわけ?」
「おいおい、何言ってんだよ・・・・」
と、健一は言った。
記憶が混乱しているにしても妙だぞ。
俺の名前は思い出してるのに・・・。
「あんたなんか大っ嫌い!とっとと出てってよ!」
由美子は健一に叫んだ。
「ママ、どーしちゃったの?」
と、ゆかりは母に言った。
「お嬢ちゃんだーれ?あたしはママじゃないわ」
と、冷たく由美子は言った・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
検査の結果分かった。
由美子の意識は、どうやら中学生の時に戻ってしまったらしいのだ。
だから、娘のことを知らないのは無理もない。
しかし、なぜ健一のことは知っていたのだろう?
それは、健一は実は中学のときクラスメートだったからだ。
中学生のときから今みたいに仲が良かったわけではない。
それどころか、健一は由美子のことをいじめていた。
由美子は健一たちのいじめのせいで、胃潰瘍を起こしたほどだった。
中学卒業後、健一と由美子は別々の高校に進学し、2人が再会したのは、20歳代の半ばごろ、同窓会のときだった。
再会した健一は、由美子にとって、以前とは打って変わり、見違えるような優しい男に成長していた。
たまたま就職先も住んでいる所も近かったこともあり、2人はやがて付き合いだし、めでたく結婚して現在に至ったわけだ。
もちろん、由美子は、中学のときのいじめなどは、完全に忘れているように見えた。
・・・・・しかし、実は由美子は忘れていなかった。
中学生のとき、いじめっ子の健一に対して抱いた憎しみを、意識の底の無意識の領域にちゃんと保存していた。
それが今回、何かのきっかけで、表に出てきてしまったようなのだ。
健一はあの手この手で、由美子の記憶を取り戻そうとした。
嫌がる由美子を連れて、2人の思い出の地に行ってみたり、由美子に編んでもらったマフラーを見せたり、初めてエッチした時のことを語ったりもした。
しかし、エッチの話を聞いたとき、由美子は激怒して叫んだ
「あんたなんかとそんなことするわけないじゃない!」
「しかし、それやらなきゃ、ゆかりがいるわけないだろ?」
「ゆかりなんて知らないわ・・・」
結局由美子の記憶は元には戻らなかった。
由美子は健一・ゆかりと共に再び暮らし始めたが、何度も実家に逃げてしまい、その度に健一に連れ戻されるということを繰り返していた。
ゆかりについても、自分の子供だとは思っていないので、何やっても叱ったりしないものだから、やがてゆかりはわがまま放題の子になっていった。
ゆかりの将来を心配した健一は、由美子との別居を決めた。
ゆかりはむろん健一が引き取ることになった。
しばらくして、由美子と健一は正式に離婚したという。