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コックリさんの礼儀

2018/07/06

私が小学生のときの話です。
コックリさんがはやっていて、友達同士で良くやっていました。
ま、女の子同士なので
「何何ちゃんの好きな人は誰ですか」「何々君と何々さんは両思いですか」「先生は今年結婚しますか」
みたいなほとんど恋の質問ばかりしてました。
男子達の間でもコックリさんがはやっていてやっぱり
「誰が好きなのは誰だ?」
みたいな事をしてたみたいです。
クラスの中に明らかに一風変わった男の子がいました。
仮にQ君とします。
Q君は私たちのコックリさんに見向きもせず、何時も黙々と漫画を読んだり1人でふらりと教室を出て行ったりして授業の途中でふらっと戻ってきたりしました。
と言っても得に悪い子というわけでもなく勉強も出来たし、スポーツも結構得意でした。
剣道をやってるらしく小学生の大会で入賞して学校で表彰される事もありました。
男子達も一目置いている存在でした。
そのQ君がある日大きな紙袋を持って登校してきました。
Q君が教室に現れた時、一瞬男子がざわめいた気がします。
「まじかよ」「しゃれんなんねえよ」
みたいな事を言っていました。
Q君は男子のグループをちらっと見て
「放課後だからな」
と言いました。
男子のグループは「おぉ」みたいに答えました。
私は、その日授業中もQ君の事が気になって仕方がありませんでした。
(放課後一体何が?)
そんな私の様子を友達のSちゃんが気がついたらしく
「ねえねえTちゃん。どうしたの。Q君の事、見てない?」
と聞かれてしまいました。
「そ、そんな事ないよ」
「怪しいな。Q君って結構カッコいいよねえ」
「ちがうったら」
みたいなやり取り。
「そうだ。Sちゃん。今日放課後予定とかってある?」と私。
「え、ないよ」
「ちょっとさ、話があるんだけど」
「何何?怪しい~」
とりあえず、私とSちゃんは放課後隠れて男子を観察する事にしました。
Q君が、紙袋を持って男子グループのところに行きました。
「そんじゃ。始めるぞ」
おお、と男子達が答えました。
私とSちゃんは、急いで帰る振りをして、外に出ました。
外から隠れて教室の窓越しに様子を見る事にしました。
「Q君カッコ良いよねえ」
とSちゃんが言います。
「あんたQ君の事好きなんじゃない」
そんなことないよ。
見たいなやり取りをしつつ中をうかがいます。
Q君は男子達に指示を出して机を並べ始めました。
真ん中に一つ置いて、椅子を3つ並べました。
その周りにぐるっと囲むように机を置きました。
それから紙袋から、何かを取り出しました。
紙のようでした。
ちょっと茶色がかっていて古い感じです。
次に白いとっくりを出して机に置きました。
あと硯、筆。
それからQ君は男子二名を指差して椅子に座らせました。
Q君も座りました。
三人で筆を持ちました。
「なんだ。コックリさんじゃない」
「Q君もやりたかったんだね。意外だね」
「でも様子が変じゃない?」
そうです。
私たちがやるコックリさんとは明らかに雰囲気が違うのです。
男子達はQ君達をぐるっと囲んで、なにやら真剣な表情です。
いつもみたいに笑いも冷やかしもありません。
そうこうしているうちにコックリさんが始まりました。
どんな質問をしているのか聞こえませんでしたが、教室に緊張が充満している雰囲気でした。
すると突然、教室の窓がガタガタと揺れました。
風?
でもそんな強い風吹いていないし。
男子達はものすごい顔をして窓を見ました。
何人かは逃げ出そうとして、ドアに走りました。
その時Q君が何か大きな声で叫びました。
男子達は凍り付いたように固まりました。
また、教室の窓が揺れました。
男子の何人かは、泣きそうな顔をして走り出しました。
何かから逃げ出すとしている様子でした。
軽くパニック状態になっている様子でした。
「何々?どうしたの」
Sちゃんが言いました。
「わ、分かんない」と私。
教室にはQ君と、筆を持った男子2人だけになっていました。
他の男子は逃げてしまったようです。
2人の男子は立ち上がろうとしてわめいているようですがQ君は凄い形相で2人を睨みつけて座らせようとしてました。
その様子を私とSちゃんはあっけにとられてみていました。
その時、突然私の耳元で
「おい。お前らも逃げろ!!見つかったぞ!!」
と声がしました。
「え。誰?え?」と私。
「え。聞こえた?誰?男子?え?」とSちゃん。
私たちはお互いの顔見合わせました。
もちろん、近くに男子はいません。
「おい!!逃げろつってんだろ!!!走れ!!!」
また聞こえました。
今度はずっとはっきり聞こえました。
「え?Q君」
私は思わず言いました。
Sちゃんは、私の手を取って立ち上がりました。
「早く!!逃げるよ!!」
「う、うん」
教室を見ると、Q君が私の方を見ました。
凄く大きな目ではっきりと私を見ました。
私は二三度うんうんと思いっきり頷いて走り出しました。
私とSちゃんは校門まで全力で走りました。
しばらくすると、校舎の方からQ君と一緒にいた2人の男子がわ~~わ~~!!と叫びながら飛び出してきました。
Sちゃんが、そのうちの1人を捕まえて
「どうしたの?何があったの?」
と聞きました。
男子は
「わっかんねえ。まじ」「しゃれんなんねえよ。やり過ぎだよ」「Qのやつ.マジだよ。俺、あんなん初めて見た」
とわけの分からない事ばかり言って逃げようとします。
ちょっと
「Q君は?」
「あいつ教室にいんじゃね。なんか、俺らのこと、怒鳴りつけてたりして離そうとしねえんだ。なんだか良く分かんねえけど。突然、もう良いぞ。お前らも逃げろ!!つって解放してくれた。」
男子はだんだん落ち着いてきた様子で、話してくれました。
「あのさ、これからQ君とこ行くよ」とSちゃん。
「アホか」
男子は手を分と振ってSちゃんを突き放しました。
「お前ら行かねえ方が良いぞ。まじ、シャレん何ねえ」
そう言って、男子は走っていきました。
「どうしよう」と私。
「行くに決まってるんでしょ」とSちゃん。
「うん」
私たちはQ君がいる教室に向かいました。
教室にはQ君が一人残っていました。
1人で机を片付けていました。
私たちに気がつくと
「おっす」
と手を挙げてくれました。
「あ、あのさ」
「何だよ。部屋の片付け手伝えよ」
「分かった」
三人で部屋を片付けました。
「さっきまで大変だったんだぜ」
「そうなの?」
「机とかめちゃくちゃでさ。ま、しょうがねえな」
「あのさ」
「なんだよ」
「ありがとう」
「なんだ。それ」
そこにSちゃんが割って入りました。
「あ、これ、とっくりじゃない。何か入ってる」
「酒だよ酒。昨日の夜、神社に置いておいたんだ」
「え、なんで」とSちゃん。
「礼儀だろ。コックリさんの礼儀」
「なにそれ?」
「知らねえの?」
「知らない」
それを聞いてQ君は、危ねえ、危ねえと言いました。
「俺よりお前らの方がよっぽど危ねえことしてるって」
「何を」
「おい」
とQ君が真剣な顔をしました。
「もう、やらねえ方が良いぞ。コックリさん」
その言い方を聞いて私はゾッとしました。
Sちゃんも顔をこわばらせました。
「わかった。ごめん」とSちゃん
「ごめんね。Q君」と私。
「なんだそれ。なんであやまんだ?」
私たち三人は教室を片付け終えて、帰宅する事にしました。
「さっき、私たち、外から見てたんだけど」とSちゃん。
「あ、気付いてたよ。まさかそっちまで行くとは思わなかったんでマジビビった。」
「何が?何が私たちの方に来たの?」
と私
それを聞いてQ君は笑いました。
「知らない方が良い事もあるって」
「気になるよ」とSちゃん。
「そうだよ、そうだよ」と私。
「ホントの事言うと、俺も分からねえんだ」
私はちょっと考えて言いました。
「その分かんないのってどうしたの?」
「ここに来んな!!って怒鳴ってやった」
「何それ?」とSちゃん
「だから。二度と来んな!!って怒鳴った」
ふ~んそうなんだあ。みたいな感じで、最後にバイバイをして分かれました。
その後、私とSちゃんとQ君は結構仲良しになっていろいろ話をしたり、中学ぐらいまで遊んでいました。
とにかく正直に言うとQ君はカッコ良かった。
私とSちゃんは別々に告白しましたが、2人ともきっぱりと振られてしまいました。
良い思い出です。

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