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トイレで見た小柄な女性

2018/06/19

心霊体験と一言で言いますが、それには単に恐ろしいだけでは済まないなんとも心締め付けられる何とも言えない気持ちにさせる体験もあるものです。
私も学生をしながら、将来こういう仕事をしてみたいと思って企画会社のアルバイトなどもしていた頃、兄は小学校の教諭を目指し何度か試験に落ちはしても何度目かの正直でやっと合格、赴任先を知らされるのを待つだけの状況でした。ある夜のこと、夕食が終わり、みんなぼつぼつ自分の時間に戻っていこうとしている時のことです。扉を出てトイレに行ったはずの兄がなかなか戻ってきません。
猫が一匹、様子を見にでたものの、帰って来た猫もなんだか様子がおかしいのです。さすがに何かあったのではないかとトイレに行ってみると「はなせ、はなせ」と叫び声が聞こえます。
春さきとはいえまだ夜は寒く、空いていた窓と言えばトイレの窓だけ。そのトイレの窓から冷たい風が入って来ていて、寒い所で兄が一つ体を冷やしつつ何かから必死に逃れようとしているようでした。真っ先に行った私が兄をトイレからリビングに連れ戻そうとしたのですが腕はカチカチに固まっていて、まるで何かに縛られて連れて行かれそうになっているかのようでした。ほどこうにもほどけない、これほどの力は感じたことがありません。親が駆けつけてトイレの方から何とか廊下に引きずり出したものの、今度は手足をバタバタさせながらお腹だけがついているような状況でも「スーッと」玄関の方に兄の体が、引き寄せられているのです。
親はお経を唱えながら、引っ張り戻します。みんな何が起きているのかさっぱりわからないその状態をどうしたら良いものやら慌てふためくばかりです。しばらくしてようやく落ち着いた時、急いでトイレの窓を閉め兄をリビングに引き入れて話を聞いてみると小柄な女性が窓から入ってきて、一生懸命「自分の子供を頼む、子供を頼む」と言いながら兄を連れ出そうとしたと言います。
その話を聞いた途端、親はあることを思いだしたそうです。知人のお嫁さんは4人の子供をのこして病気で逝ってしまったのだとか。しかも4人の子供の内、一番下はまだ乳児だったそうです。
一番上は年齢からすればその年、小学校に入学するころではなかったかと。
まもなく兄の赴任先が決まります。そうです、その子供さんが通う地域の学校でした。
死してなお、子供のことを一生懸命に守ろうとするお母さんの姿、私にとっても霊との戦いで恐ろしい出来事ではあっても何だか悲しいような、胸が締め付けられるような複雑な体験として忘れられないのです。子供を抱えて悩みながらも子育てに一生懸命なお母さんの姿を見る度にこのことを思い出します。

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