刃物男
2018/05/20
一年前、北関東のファミマでバイトしてた時に変な体験した。
俺は夜勤専門で夜0時~朝8時までのシフト。
帰ったら夕方まで寝るという生活だった。
問題はその時に見る夢だった。
夢の内容は、コンビニで働いている俺に向かって、変な男が刃物持って追い掛け回してくる、というものだった。
最近コンビニ強盗が多いから自分で心配してたのかな?と思ったが、さすがに2週間連続で見た時は変に思った。
コンビニの仕事を終えて朝勤の新人の女の子と変わる時に、ふとそんな変な夢の内容を話題にしてみると、その子は不審な表情になって、私も最近似たような夢を見ます、という。
彼女の夢は俺とほぼ同じ、刃物男に追い掛け回されるという内容らしい。
それも、2週間前このコンビニで働き出してから、という事だった。
そういえばこの子がバイトを始めたのと、俺が夢を見出したのは同時期だった。
彼女は共感を覚えるよりも気味が悪いと思ったようで、コンビニを辞めたいとまで言い出した。
しかしまだ2週間目だし、店長も良い人だからそうそう迷惑は掛けられない。
俺も夢を見ずにすむなら他のコンビニ店に移ってもよかったが、たかが夢でそこまでするか?とも思った。
とりあえずこの話題は誰にも話さないほうがいい、その内に夢も見ないようになる、という結論になった。
その日から1週間たった日。
まだ夢は続いていたが、俺は夜勤明けだったので帰るとすぐに布団に横になった。
今までとは違う夢を見た。
夢の中でも俺は布団に寝ていた。
すると、ガチャッ、と玄関のドアが開く音がして、誰かが足音を立てながら入ってきた。
そいつは何か重そうな物をズルズル引きづりながら、俺の寝ている部屋に向かってゆっくり歩いてくる。
俺は今までにない恐怖感を感じた。
いつも夢に出てくる刃物男だと直感した。
ヤツがいつも持ってる出刃包丁のような刃物を鮮明に思い出した。
俺は布団をめくろうと手を動かしかけたが、いつの間にか金縛り状態になっていて動けない。
その瞬間、この夢の結末を想像した。
ヤツの包丁が布団ごと俺の腹をゆっくりと刺し貫く場面だ。
ズルズルと何かを引きづる音は、俺の部屋の前で止まり、ドアがゆっくりと開いた。
右手に包丁。
左手には焼けた人間のような黒い塊。
そして喪服を着た笑顔のその男は、コンビニの店長だった。
俺は泣き出してしまった。
悲鳴をあげようとしても声も出ず、体は布団から抜け出せないままだ。
店長は笑顔のまま左手に引きづっていた物を床に放ると、寝ている俺に包丁を向けて飛び掛ってきた。
そこで俺は汗びっしょりで目を覚ました。
もうバイトを辞めるのも仕方がないか、とすら思い始めていた。
その日の夜の勤務が終わり、俺はそのまま事務所で朝方に来るはずの店長を待っていた。
店長より先に、同じ朝方勤務の例の女の子が来ていたが、今日でここを辞めるという。
理由を聞いた時は、ここより条件の良いバイトがあったから、と誤魔化してはいたが夢の話を匂わすと表情が変わった。
お互いの夢の内容を確認しあった時には、彼女は手が震えるくらいに動揺していた。
俺はそのまま店長を待ってバイトを辞めた。
丁度その時間帯を希望していた新人がいるらしく、あまり迷惑は掛からなかったみたいで、安心する反面、俺は店長の顔をロクに見る事が出来なかった。
朝勤の女の子もその日限りで他の職に移ったらしい。
俺はその日以来夢は見なくなった。
結局、原因は今でもわからない。
ただ、事務所で店長を待っていた時に、彼女と一緒に働いていた30代のベテラン女性に店長の事を聞いてみた。
店長は性格が良くて客受けもいい人だが、前科持ちという噂があるらしい、と。