まるでオタクじゃないか
2024/12/17
小学校の頃、三年生の頃から付き合いだした友だちがいた
よく彼の家にあそびに行った
彼は遊びを発見する天才だった
中学に入ったある時、彼の部屋に見知らぬ痩せた男が何時も居るようになった
友人に聞くとそんなもの居ねえと大騒ぎ
彼にはそんな物など見えていなかったのだ
年の2つしか違わない弟と巻き込んで悪霊退散だとかコックリさんで追い払おうとか馬鹿なことばかり話していた
その事があって間もなく彼と疎遠になった
彼にも別の友人たちがおり、そっちとの付き合いを深めていったのだ
二年経ち、彼が四国に引っ越すことになったので、久々に他の仲間と二人で元々小さな山だったであろう高台の彼の家を訪ねた
いつもの様に積み石で固めた崖上のフェンス側を通り、彼の部屋をサッシ越しに覗いてみた
変な痩せた男がいた
前と同じ、チェック柄の長袖シャツと裾上げをせずに折り上げたジーパン
そいつが右の人差し指で喉仏の皮を摘んで引っ張っていた
まるでオタクみたいだった
びっくりした事に、今日はそいつが俺に気が付くとこちらに来てサッシを開けた
「いよっ」
それは間違いなくすっかりオタク風に変貌した友人の姿だった
「あ、あー…… ◯ちゃん。なんか変わったなー、◯ちゃん」
俯いて上手い言葉を返せない様に彼は口籠った
「オタクじゃないか、まるで◯ちゃん。オタクだよ◯ちゃん」
それからこの友人は、あちらの高校を中退して、座敷オタクとして友人の様々な友人の家を泊まり歩くようになった
俺の家はたまにしか来なかったが、それでも酷く汚れたチェックのシャツと異臭を放ちながら、ちょっとした友人の間で困った奴と噂された
いつしか友人の間でも暫く来ていないと言うようになって、とうとう皆も彼の事など忘れてしまっていた
あれから30年
冬が来るといつも彼を思い出す
振り返ると今でも部屋の隅に、チェックのシャツで立っていそうである