黒い手首
2024/11/10
以前住んでいたマンションの出来事。
そのマンションは玄関ドアを開けると廊下があり、引き戸の先に台所があった。
或る日の夕方、食事の準備をするため私は流しに背を向けキッチンテーブルの上でキャベツを切っていた。
左斜め向かい玄関に続く引き戸は開いていた。
トントンと軽快な音を立てキャベツを切っていると何故か前下方が気になり、眼球だけ動かしチラッと視線を向け引き戸のレールを見た。
するとそこには黒い手首が!しかもこちらの様子を窺っているのかじーっとして動かない。
一瞬体がビクッ!となり包丁を持つ右手が宙で止まったが「これは絶対ヤバイやつじゃっ!」と脳が瞬時に判断し、視線をまな板に戻しなに食わない顔をしてキャベツを切り続けた。
私の気持ちが落ち込んでいるからそういう物を引き寄せたんだ。
そう思った私は意を決し、黒い手を注視しつつ変顔を作り「しあぁ~つぅのぉここぉ~ろぉは、ははぁごこぉろぉ~(指圧の心は母心)アッハッハッハッハ~」と腹の底から大きな声を出した。
すると今度は私の様子を窺っていた黒い手がビクッと一瞬動き、まるで笑いを抑えるかの様に細かく震えながら後ろにスーっと下がりやがて見えなくなった。
何故か黒い手に勝った気がした私はフンフン鼻歌を歌いながら野菜を切り終わったが、肩に違和感を感じた。
意識はしていなかったが随分肩に力が入っていたらしく肩凝りになっていた。