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スキー場の人影

2024/09/08

僕はオカルトサークルの先輩である吉見さんのマンションへ遊びに来ていた。
吉見さんは、僕がオカルト道の師匠と心酔する大学のオカルトサークルの先輩と同学年で、師匠の入学時からのオカルトサークルの仲間である。

こたつに入り、何か飲みたい旨を言ったところ、吉見さんはコーヒーを作ってくれた。
吉見さんは、岡山はスキー場のある上信越や東北まで遠いとぼやいていた。
小学生の頃にスキーを始め、スキーの1級とやらを持っていると言う。

僕は雪かスキーに関わる怖い話はないかと訊いてみた。
吉見さんは次のような話をしてくれた。

春休みを利用して、岡山から東京に帰郷した。
事前に東京の友人たち数人と東北地方のとあるスキー場へ旅行に行く計画をしていた。

日中はみんなで色んなコースを滑った。
平日のため、それほど混んでいない。
晴れてはいなかったが、雪がふっているわけでもなかった。

夕方ごろ雪が降り出してきた。
吉見さんと友人たちは宿泊先へ戻った。
みんな疲れていて食後旅館の部屋の中で談笑していたが、吉見さんは一人で食後再度スキー場へ行った。

ナイター設備があるため、夕刻以降もスキーが出来るところである。
予想通り、スキー客は平日の夜と言うことで少ない。
彼女は長いコースのリフト乗り場に向かった。
夜の白景色は何とも言えないと思っていた。

リフト降り場から夜のコースを見晴らした。
昼間の雰囲気とまた違うと思いながら鳥瞰した。
最初このコースで滑っているスキーヤーは吉見さん一人だけだと思った。

そうしたら、コース外の木陰に何か黒い人影らしきものを見つけた。
位置的には吉見さんの斜め下である。暗いのでよく見えない。
何をしているのだろう。
コースを外れてこけてしまった人かもしれない。

吉見さんは、コースへ出て滑り出した。
人影があったと思しき場所の付近まで滑った。
しかしそれらしきものはなかった。

気のせいかなと思い、滑降を再開したところ、後方と言うか斜め上方に、なにやら女性の声が微かに聞こえた。
何をいっているのかはわからない。振り向いて上方を見た。
コース外の木陰に女性が一人ポツンと立っていた。

暗いため顔はよくわからないが背格好で女性だとわかる。
スカート姿のようで、体は細め、髪は長そう。
真冬で雪が降っているのにスキーウェアや防寒具の類いは着ていない様子であった。

帽子もかぶっていない。勿論ゴーグルも付けていない様だ。
こんな雪の降る寒空の下、スカートとはありえない。
どうやら、その女性は吉見さんの方を向いている。薄気味悪い。

吉見さんは怖くなって、滑降を再開し麓の方へ向かった。
麓に到着したあと、女性がいたところを振り向いた。
よくみても、それらしき人影はないようであった。

先ほどとは違うコースのリフト乗り場へ向かった。
そのコースも日中何回か滑っており、結構長い。

リフトに乗ったのは吉見さんだけのようだ。
彼女は再び夜のスキー場の雪景色を堪能していた。

コースの頂きに人影がある。スキーヤーにしては、何かおかしい。
ストックを持ってなく、スキー板も履いていなく、スキーウェアも着ていなさそう。
少しずつ近付くと、先ほどのスカートをはいた女性のように見える。

ありえない。あの時間で、先ほど滑降していたコースから歩いて、このコースの頂きへは絶対に来ることが出来ない場所だ。
スキーを利用してもまずありえない。

吉見さんが移動している最中、あの女性を見かけていけない。不可能である。
そもそもスカートを穿いているスキーヤーなんかいない。

最初はよくわからなかったが、その女性は吉見さんの方を向いているのがわかった。
降りしきる雪の中で、吉見さんの顔をじっと見ているようだ。

このままでは吉見さんはあの女性と遭遇する。
吉見さんはリフト降り場の近くで雪面まで1メートルほどの高さで比較的平坦なところがあるのを思い出した。

その場所が来た。意を決してリフトのチェアから降りる。うまく雪面に着地できた。
全く一瞥もせずコースの方に目を向け、急いでコースへ出て、麓へ滑降する。

スピード出して滑降する。後ろは見ない。前のみ見る。スキーを停めずに麓へ一気に滑降する。
ナイター客が休んでいるところまで行く。その時点でやっと後方の頂きの方を見る。

誰もいなかった。

吉見さんはスキー板を靴からはずし、急いで宿泊先へ戻った。
旅館に戻ると1階で何か作業をしていた女将が笑顔でお帰りなさいと声をかけてくれた。

吉見さんは女将に作り笑顔で只今ですと一言返して、2階の部屋に入った。
部屋には布団を敷かれていたが、友人たちはテレビのまえのテーブルで談笑をしていた。

「お帰り。あれ、ナイター、大してすべってないのでは?」
と友人の一人が言ってきた。
「ゲレンデ寒いから、二本滑っただけで戻ってきた」
と吉見さんは答えた。件の人影の女性の話はしなかった。

吉見さんは その晩風呂だけ入り、早めに寝入った。
その時以降、その人影の女性には遭遇していない。

話を聴き終わったときは、入れてもらったコーヒーの残りは冷めていた。
夜も更けていた。

僕は残ったコーヒーを飲みほした。

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