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橋なんか見えなかった

2024/07/13

26年前に実際に体験した話をします。

その日高校時代から仲のよかった友人(以下友人)に連れられて、そのまた友人(以下A)の母校に卒業後の訪問に行こうとしていた。
時間は恐らく昼の3時頃だったと思う。Aが中古車を買ったのでドライブに行きたいがための暇つぶし的な訪問であったことを覚えている。

Aの母校は冬には山腹がスキー場になるほど標高の高い場所にあり、毎日自転車で1時間かけて通っていたのだそうだ。
ドライブ途中にAが言った。「僕が3年苦労して通った道も車で走るとこんなに早いんだなぁ。」
そう言って、そこそこの坂道を、真っ黒のカローラレビンが快音を出して走って行く。

レビンには4人が乗っていた。運転手はA、助手席に友人、左後ろに俺が乗り、右後ろにAの同校の俺には初対面の人間だ。
「この辺からはさぁ。心臓破りの坂で有名だったんだよ。帰りはスイスイだったけどな。」
Aが山道の説明をしながらつぶやく。

俺の右に座っている奴(以下B)も話に続く。
「そういや、あの先に微かにトンネルが見えるだろ?心霊スポットで有名でさぁ。」
「そうなんだよな。だから昼に来たかったんだよな。」
Aが自分も苦手とばかり話に続く。

そうこう話している内に、車はトンネルへとさしかかった。
確かにずいぶん昔に作られたような非常に横幅の狭いトンネルだった。
もしかしたら、軽自動車2台でもすれ違えないかも知れない。もっともAの話だと、余り車は通らないようだ。

昼間でも結構不気味なトンネルだ。夜なんかくるもんじゃないな。と思いつつ、Aの車がトンネルを越えていく。
Aも恐がりな割には興味もあったようで、ゆっくりトンネルを鑑賞させてくれたことを覚えている。

「もう少し先を左に斜めに入る道があるんだよ。それを超えたら我が母校までもう一息。」
Aがトンネルを超えて安心したのか少し饒舌になったようだ。
「ほら、あそこだよ」Aがまず言葉を放ち、Bも「もう卒業して半年かぁ。懐かしいなぁ」と続く。

この道を初めて通る友人と俺は、全くその斜めの道が見えなかった。
慣れとはすごいモノで、さすが3年通った道だなぁ。と感心したその瞬間!Aが左ウインカーを出す。

「どこに道があるんだよ。」
友人はその道が判別できないようだ。もちろん俺にも全く見えなかった。

「何言ってるんだよ?もう50mもないぜ?ほら、そこだよ。」
とAは指を差して俺たちに伝えてくれた。
だけど、俺に見えたのはただの崖だった。というより、遥か下に川が流れている谷だった。

「お前、僕をからかってるだろ?その先は谷底じゃねーかっ!」
友人が笑いながらAの肩を叩く。
「冗談なんて言ってねーよ。お前ら、目が悪いんじゃねーか?」
なんかこうなると、お互いの騙し合いみたいだ。その瞬間、Aがハンドルを左に傾けた。

後で友人と話してわかったことだが、確かに下に谷底を見た。
間違いない。俺は、大声で叫びながら身構える態勢を取った。
その瞬間は見えていなかったけど、友人も恐らく同じような態勢を取っていたと思う。

「おわっ!!!!!」2人の大声に驚いたAが急ブレーキをかけた。
急ブレーキはかかり、キーという音がする。
そんなはずはない。俺たちは谷底へ真っ逆さまのはずだ。

うっすら目を開けると、そこは橋の上だった。両側に赤色の手すりが付いている立派な橋。
橋の幅は、元の道よりも広いくらいだ。
「お前ら、なんつー声出すんだよ。びびったじゃねーか!」Aが紅葉した顔で、胸に手を置いていた。
「ご・・・ごめん。疲れていたみたいだ。」
友人はAに詫び、無事母校へと着いた。

母校の先生用の駐車場に着くか付かない頃。友人が話さない事もあり、俺がAに聞いてみた。
「なあ、あの橋なんだけど。俺には橋なんか見えなかった。ただの崖・・・というか谷だったんだ。」
友人も慌てて口を開く。
「そ!そうだよ!橋なんか無かったんだ!」
あきれた声でAが答えた。
「じゃあ、どうやって渡ったんだよ。というか、お前ら僕をからかうにしては演技しすぎだろ!?」
4人はお互い、自分の体験を話し始めた。

俺と友人は、橋が見えていなかったこと。AとBは橋が見えていたこと。
お互い1時間も話しただろうか。ふとしたときにBが口を開いた。

「幽霊の仕業じゃないか?」
「いや、でも心霊スポットってあのトンネルだろ?」Aが話に続く。
「覚えてないか?」BがAに話を投げかけ始めた。
「俺たちが2年生の時にあの橋って作り替えられたよな。その後に、結構先輩とかが橋の先で事故に遭わなかったか?」
「あー結構あそこ事故が多かったよなぁ。特にできたての頃。2人ほど亡くなった事故もあったよな。」Aが続く。

この学校の通学は、息は心臓破りの坂。
帰りはスイスイって言ってたけど、ノーブレーキでで橋から道路に出るときに事故がよく起きたとのことだった。
反対側からは橋が見にくかったのだ。
「でも反対側からの車って、火葬場の・・・」
Aはそこまで言って言葉を失った。
「お前ら、橋が見えないって言ってたよな。」
Aが真剣な顔で聞いてきた。

「もし、もしだよ?あの橋を渡らなかったらその先に火葬場があるんだよ。」
Aは話を続ける。俺はその瞬間にいやなことに気づいた。
「もし道がなくて曲がれなかったら、火葬場に着くと言うこと?」
「途中にあるのは、多分今でも廃屋の家と、火葬場だけなんだよ。」
Bが教えてくれた。

この話は実際に起こった話だけど、未だにどうしてもわからないことがある。
この現象は、トンネルから来る心霊現象か。それとも、事故で亡くなった方の心霊現象か。
今は親友になっている友人と、話をする度に悩む。
俺たちは、一度2人で免許を取った後にあの場所に行った。花束を2つ買って。
トンネルと、橋に置きに行き、祈りを捧げに言ったんだ。

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