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屋根裏の影

2023/10/13

十年以上前の話。
我が家は毎年お盆休みに、父方のじーちゃんちに帰省する。
じーちゃんちは田舎にあって、家がとにかく古い。そして広い。
築100年くらいらしい。戦後の日本ですか?みたいな感じの家に住んでた。
トトロに出てくるお化け屋敷な家の外見を日本風で陰湿にした感じ。
夏でも涼しくて、昼間でも暗いし、日当たりもよくない。
小学校の夏休みの宿題で「身近な昔のものを調べよう」というのがあってじーちゃんちはまさにそれにピッタリだった。
蔵には千歯扱きががあるし、昔の金(五円玉みたいな形で紐に通してまとめてある)もあった。

「屋根裏部屋にはもっといろいろある」と、じーちゃんが言ったので、宿題は終わったが、好奇心で兄と屋根裏に上がらせてもらった。
屋根裏に上がったのは、俺と兄(中1)の二人だけ。
古い家なので屋根裏は床(下から見たら天井?)が抜けたら怖いから大人は上がらないそうだ。
(ちなみにこの話の数年後に本当に床が抜けた)
懐中電灯を片手に、足元に注意しながらじりじり進んだ。
屋根裏はずっと人が上がってないせいで埃っぽかった。
床が軋んでも、まるで探検をしているようでわくわくした。
しばらく回りを物色し冒険気分を味わった後、埃っぽいし、怖いし(床が抜けそう的な意味で)
そろそろ飽きたな、という雰囲気になった。

ふと俺があたりをぐるっと懐中電灯で照らしたとき、部屋の隅に何か黒いものを見た。
屋根裏は真っ暗だが狭い。
懐中電灯で照らせば、そこになにがあるのかわかるはず。
ん?と思ってもう一度懐中電灯を当てた。
そこにいたのは、影だった。
壁をバックに黒い人型のシルエットが浮かんでいた。
兄は自分の後ろにいるから、ちがう。
人形か何かなら形がはっきり見えて、影のように真っ黒でぼやけて見えるはずがない。

小学生の自分に影の説明がだとか、科学的にありうる現象だとか
わかるはずがないが、、直感で「おかしい」と感じた。
俺は影自体を長く見なかった様に思う。
咄嗟に懐中電灯を下に向け兄の背に隠れるようにして抱きついた。
「兄ちゃん、あっちになんかいる」
兄に抱きつき目を硬く閉じながら言った。
「幽霊でも見た?それともネズミ?」
と笑いながら兄は言った。

熱いせいか、はたまた邪魔なだけか、兄は俺を引き剥がそうとしたが、俺は必死でしがみついた。
「あっちの隅…影みたいなの」
怖くて怖くて目も開けられなかった。
ただ兄にすがりついていた。
兄は懐中電灯でそちらを照らしたようだった。
兄が息を呑んだのがわかった。
きっとあの影を見たのだ。
「ほんとだ…影みたいなのが、いる…」
兄は俺を痛いくらいに抱きしめた。

兄もあの影が異常なものであると感じたようだった。
俺は目を閉じていたからわからなかったが、兄は懐中電灯を影に当てたたままでいたようだった。
俺を抱える腕は一本だったし、明かりを手放した隙にあの影が闇にまぎれて近づくのを
恐れたのかもしれない。
兄と一緒にじりじりと下りるための出口である梯子までゆっくり後退した。
この時は目を開けていたが、俺はつま先しか見ていなかった。
兄は光を影の方向に当てたまま、
「あいつは動いてこない、このままゆっくり戻ろう」
と、ものすごい力で俺の肩を抱きながら言った。
なんとか梯子の所までたどり着き、俺と兄は梯子から半ば飛び降りるようによう戻った。

降りた時の音に驚いたのか、隣の部屋にいたばーちゃんが顔を出して
「梯子から落ちたんか?古い梯子じゃけんねぇ。
それよか、早く洗面所行って洗ってきんさい、埃まみれよ」
と言った。

俺たちは震えながら、洗面所に向かい手と顔を洗った。
そして屋根裏での事をじーちゃん、ばーちゃん、そして両親に話した。
両親は「古い家だしお化けもいるかもね」なノリだったが
じじばばは真面目?に対応してくれた。
俺たちは呪われるとか祟られるとか、取り憑かれるんじゃないかとか心配した。
じーちゃんは
「お盆だからご先祖様が帰ってきたんじゃろう」
と言ったので、兄が、墓参りがまだだから催促に来たのかと尋ねたら
「お盆の墓は空き家だ、墓を空けて家に帰ってくるもんだ。
墓参りはご先祖様が墓に帰ってからしたらええ」
と言っていた。毎年お盆にじーちゃんの家に行き、3、4泊するのに、墓参りが帰る前なのが何でかわかった。

先祖じゃなくて、悪い霊かも、と聞いたら
「何のために家に神棚があると思ってんだ」と言われた。
実際その後の俺と兄に不幸はなかったし、ぴんぴんしてる
じーさんばーさんは死んだが、影騒動のずっと後だし、関係があったようには思えない。
あの影はご先祖様だったのか、悪い悪霊だったけど助かったのか、通りすがりの幽霊だったのか。
なんだったのか、何故あそこにいたのかは、わからない。
幽霊ではなかったのかもしれないが、今となっては確かめる術もない。

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