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窓のない格安の部屋

2023/02/26

昔出張中のホテルで起きた話です。

その日私は東京から東海地方のとある県へ出張に行っていました。
急きょ次の日予定していた方向と全くの別方向へ行かなくてはいけなくなり次の日の予定に行きやすいY市でホテルを探す事にしました。

スマホをポチポチしながら宿泊サイトを見ていると急だったためか一件だけ出張予算に合う部屋が見つかりました。
当時勤めていた会社は安ホテルに泊まっても宿泊費が一定額必ず出るので薄給の私は安いホテルに泊まって差額を嫁に内緒のお小遣いにしていたのです。

そこのホテルのHPには「窓無し部屋のため格安でご提供!!」と書いてありました。
チェックインの時間も夜遅くなってからだし、朝もそこそこの時間に出発するのでまあいいかと予約をしてチェックイン。

エレベーターに乗って自分の階へ到着すると何とも陰気な雰囲気の漂うホテルでしたが、安いしこんなものだろうなと大して気にもせず部屋へ向かいました。
私の部屋は正方形のホテルのの真ん中辺り。
ちょうど『回』の字の中の四角の辺りに部屋がありました。

部屋はツインルームだったので、一つのベッドに荷物を広げもう一つのベッドで睡眠用にしようと決め、疲れていたためシャワーを浴びて早々に寝ていると部屋の中から「ピンポーン」とチャイムが鳴った気がして目が覚めました。

多分近くの繁華街で飲んでいた他のサラリーマンが酔っ払ってよろめいた時に部屋のインターホンでも押してしまったのでしょう。
大して気にもせず寝直そうとすると今度ははっきりと「ピンポーン」「ピンポーン」とチャイムが鳴りました。

そこで私はハッと気付きました。
部屋にインターホンなんてなかった事に。
ルームサービスのあるホテルでもない限り安い素泊まりのビジネスホテルにはインターホンなんか必要ないのです。

すると、同時にホテルの廊下を子供がパタパタと走り回る音が遠くから聞こえてきたのです。
遠かった足音はどんどんと近づいてきてそのまま私の部屋へドアも開けずに入ってきたのです。
私が寝ていない方のベッドで飛び跳ねる音と子供がキャッキャッとはしゃぐ笑い声。

私は恐怖に震えながら絶対に起きるものかとギュッと目をつぶり寝たふりを続けていましたが、ベッドではしゃぐ何かは飛び跳ねるだけでは飽き足らないのかまるで遊びに誘うかのように私の頬や肩を叩いてくるのです。
それでも目を絶対に開けずに寝たふりを続けているとフッと気配が消え部屋には何事もなかったかのような静寂が訪れました。

そのまま私は意識を失うかの様に眠り朝は早々とチェックアウトをして出発をしました。
もしかするとあの夜の出来事は私の夢だったのかもしれません。
が、あのリアルな感触と子供のはしゃぐ様は一生忘れられそうにありません。
私の記憶に残る洒落にならないほど怖い話です。

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