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夏美ちゃん

2022/10/05

私はアトピーで体中にひどい湿疹ができている。
だから学校ではみんなにキモイって言われて友達なんていない。彼氏なんて夢のまた夢。
痒くて眠れないから朝が辛い。
せめて学校が休みの日ぐらいゆっくり休みたいのに、親が外に遊びに行けだの友達つくれだのとウザイ。
こんな体だから外出することも、人に会うことも苦痛。それにお話したって楽しい話題なんてない。
休み時間に友達同士でコーラ片手にポテチを楽しそうにつまんでるのを、私は遠目に見るしかない。
学校帰りに小さな女の子が私を指差して汚いって言った。
これが私の学校生活。学校どうだったと聞かれたらこう答えるしかない。
楽しいと感じるのはゲームやってるときぐらい。そんなこと話しても親はいい顔しない。
新しく試した治療方は合わなくてますます痒くなった。
そんなこと話したってしょうがない、話すだけでますます憂鬱になる。
そう言ったら、家に引きこもってるからダメだの、湿疹くらいで離れていくなら友達ではないだの、がんばって楽しく話せる話題を作れだのと説教が始まる。
だったら友達なんて要らない、粉がぱらぱら落ちる体で行きたいところなんてない。一人で家にいるほうがずっと幸せ。
そう言ったらますますウザイ説教が始まる。

そこで、『友達を作る』ことにした。
電車の中で出会った他校の子、夏美。
おしゃれには興味がなく(みんながおしゃれを楽しんでる傍らで、私は真剣にスキンケアや肌に合う服の情報収集に明け暮れてる)、ゲームやマンガが好きなので気が合う。
元アトピーだったから私の気持ちをよくわかってくれて、色々とアドバイスしてくれる…といった具合に設定を固める。
そして、その設定に沿って、電車の中でおしゃべりしただの、家にお呼ばれしただの、今日はちょっとケンカしてしまっただのと作り話をしておく。
すると親は安心してそんなに口出ししなくなってきた。
作り話すること自体疲れるし、つじつま合わせのために人目を気にしないですむ場所を見つけ時間潰す必要があったが、親との会話を早く切り上げられるのは助かった。

そうして数ヶ月がたった今日。
いつものように時間を潰してから帰宅すると、親がこう言ってきた。
「今日、夏美ちゃんと約束してたんじゃなかったの」
…え?
「ほらこれ、あなたに渡そうと持ってきてたのよ」
そう言って、私に黒い液体が入ったペットボトルを渡してきた。
「ほんと、いい子ね、夏美ちゃん」
…誰? 誰がこれをもってきたの?
訊くに訊けない。もしボロが出たら作り話であることがバレてよりいっそうウザイやり取りの日々が始まる。
『夏美』が持ってきたというペットボトル。添えられたメモには、定期的にすこしづつ飲むように書かれている。
親の字ではない、もちろん私の字でもない。

さてどうしよう。
今こうして、私はこれまであったことを文章にまとめている。
慢性的なあかぎれで指先が出血するためキーボードもマウスも血まみれ。
『夏美』からの贈り物、ためしに飲んでみようか。本当に効果があるかもしれないし、誰かの悪質な悪戯で猛毒だったとしても、私がラクになれることに変わりはないのだから。

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