山のオヤジ
2022/08/19
北東北のとある原生林に分け入っていた時のこと。
数時間歩き続けても人っ子一人いない、そんな場所だったんだけど水場で一人のオヤジと出くわした。
オヤジは、全身を毛皮で包んでいて、一見してマタギ。旧式の鉄砲も携えていたし。ただし、なぜかチェーンソーも持っていた。
まぁ、山のマナーとして普通にあいさつしたけど、向こうもちょっと面食らった表情をしつつ、あいさつをしてくれた。
ただ、別れ際にギョッとしたのは、片手がスパッと切り落とされていて、包帯が巻かれてはいるんだけど、血がポタポタしたたり落ちているんだ。
別れて、更に1時間ほど歩いていくと、急に騒然としてきた。ふもとの方からシェパードが数頭吠えながら走ってくる。
ややあって、警察官の群。
『こんなところで何やってるんだ!?』
そんなもん、大きなお世話だ。
『手首のない男を見なかった?』
『え、小一時間ほど前に水場で会いましたけど・・・』
『どっちに行った!!??』
一陣の風のように去っていく警察スタッフ&ドッグズ。
あのオヤジ、町で一人殺して山に逃げてきた殺人犯だったんだって。
俺には全く殺気もへったくれも感じさせなかったんだが、こんな山奥で殺されていたら、誰にも見つけられずに白骨になっていたかもしれなかったね。
でも、ちゃんと挨拶してくれたオヤジ・・・
イ㌔