暗渠の中
2022/06/29
これは俺が小学生の時の話。
実家はすごい田舎で田んぼに水をひくためき整備された水路がたくさんあったんだ。俺は水路の大部分が暗渠になってることもあって怖くて近寄ることはあまりなかった。
田植えがもうすぐはじまる頃、暗渠になってる所からバシャバシャバシャバシャ音が聞こえてきた。なんだろう?と思って上からのぞいてみた。
けど誰もいなかった。でっかい魚でもいるのかなと好奇心から暗渠の中に入ってみることにした。水位は足首くらいで危険は感じなかったんだけど50メートル以上続く暗く湿った雰囲気に俺は飲まれていた。でも好奇心が勝ったんだ。
10mほど進んだころには目の前は真っ暗で四つん這いになりながら進んでいた。そこら辺でおかしなことが起こった。バキボキとなにかをかじるような音が10mくらい先から聞こえてきたんだ。
ここで魚なんかじゃない何かがいるのを本能的に確信していたわけだが、俺は自分から出る音を殺しながらそれに近づいて行った。
相手に気付かれずに5mほどまで距離を縮めることができたが、そのとき手に触れたものを手にとった直後、俺は悲鳴を上げながら元来た道を引き返した。
俺が触れたものは、所々かじられた人間の指だった。
物心ついたころから暗渠の中へは入るなと事あるごとに言われてきた。中に入るまで危なくないのになんで入っちゃだめなんだろうと思っていた。
暗渠に入って起こった出来事を婆ちゃんや親に話せばいままでの関係がおかしくなってしまうんじゃないかと思っていた俺は、今日まで誰にも話せなかった。
明日、二十年近く村の長をしてる婆ちゃんにあの中に何があるのか聞いてみようと思う。