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詰め寄る女

2022/06/08

ちょっと前までなんとも思ってなかった体験ですが、今思うと尋常じゃなく怖いので話します。

昨年の9月、勤務先の事務所が移転し、道路に面した大きく綺麗な建物になりました。引越し作業に夢中になっていると、いつの間にかお昼時になっていました。

先輩が「よし、飯食うか。」と言い、周りの同僚も同意し近くのファミレスに行くことになりましたが、僕はまだ途中だった作業があったので、「先行っててください。後から行きます。」と言って、また作業に戻りました。

先輩たちが出ていって15分程たった頃、ふと顔を上げると広いオフィスの入口から紺色のワンピースに身を包んだ女の人がこちらを見ていました。美人なはずですが、なぜか酷く疲れているように見えました。

僕はまだ同僚が残っていたのかと思って、「○○先輩たちなら先にガ○トでお昼を食べてます。あなたも先に行っててください。」と言いました。しかし女性は無反応で、ただただこちらを見つめるばかりでした。

まぁいいか、僕もそろそろ行くか、と下に置いておいた財布を拾い、また顔を上げると、女性が5m程まで近くに来ていました。

僕は酷く驚きました。何しろ、オフィスの入口から僕のいるオフィスの隅っこまで少なくとも約25mあり、さらにダンボールやもので溢れるオフィスの中を財布を拾って顔を上げるまでの短時間で移動できるはずが無いからです。

ゾッとしました。また、その時僕は改めて女性の顔を見て、こんな子うちの職場にいないと気付きました。さらに、僕が瞬きをすると僕と女性との距離は2mに縮みました。

僕は女性から目を離さぬようにオフィスからそろそろと出て、後ろ手にエレベーターのボタンを押しました。

ホッとしてまた下を向き、ハッとなってまた視線を戻すと、オフィスの入り口から女性がこちらをのぞき込んでいました。

そのまま倒れ込むようにエレベーターに入り、1階を押してエントランスに降りました。助かったと思ったのもつかの間、機関銃の様な速さの物凄い足音が非常階段から聞こえ、情けなく悲鳴を上げながらビルから飛び出て、点滅していた横断歩道に飛び込みました。

僕が渡りきるのとほぼ同時に横断歩道の信号が赤になり、僕は息を切らしてその場に座り込みました。すると、背後で衝撃音と変声期を迎える途中の男の子のような声の「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」という悲鳴が響きました。

驚いて振り向くと、はるか遠くに紺色のボロきれのような女性が倒れていました。動く気配はありませんでした。人垣と救急車の祭りで、騒ぎを聞きつけ先輩達も出てきました。

後で聞いた話ですが、僕がビルから飛び出した時、女性との距離は1mも無かったそうです。

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