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水色の顔

2021/07/22

俺が高校3年生の時の話。夏頃に友人のTが車の免許を取ったので、俺達は毎日のようにTの車で深夜のドライブに行っていた。

しかしTは毎回同じような方向にしか行かない癖があるようで、それに飽きてきた俺は気分を変えるために提案した。
俺「なぁT、心霊スポット行かね?」

Tは霊的なものが苦手だったし、他に車に乗ってた2人の友人もあまり得意ではない様子だった。それでもドライブルートのマンネリ化は感じていたようで、渋々承諾してくれたみたいだった。

ちなみにその心霊スポットというのは、俺達の通う高校のすぐ近くにある、森林の中にポツリと佇む小さな神社のことで、肝試しに行くクラスメイトも少なくなかった。

その神社には、過去にその森の中でリンチされて殺された男性の霊が出るとか、遺体を捨てられた女性の霊が居るとか、色んな噂があった。

でも俺は一切信じてなかったし(森の中でリンチされて死んだ人がいるのは事実で、ニュースにもなってるらしいが)、クラスメイトがその神社で心霊写真を撮ってきた時にも見せてもらったが、どうもうさんくさくて信じられなかった。

そのクラスメイトは神社を訪れたすぐ後にバイク事故で死んでしまい、「神社に遊び半分で行ったせいで死んだ!」などという噂も立っていたが、普段からヤンチャしている奴だったので偶然に過ぎないと思った。

俺達は途中にあるコンビニで塩を1袋買った。有事の際には俺が霊に塩をぶちまけて退治するつもりだった。そんなこんなで暗くて電灯もろくにない田舎道を通っていくとその途中に森林へ入っていく脇道があり、そこを真っ直ぐ行くと左側にその神社は存在していた。周りには廃墟のようなボロボロの建物しかなく、薄暗かった。時刻は深夜3時。俺達は車を降りて辺りを見回した。

異質だった。明らかに。雰囲気がまるで違った。言葉では表せないが、とにかく異様だった。それに、夏なのになんだか肌寒かった。入口付近には階段があり、周りには石碑のようなものが不気味に立ち並んでいた。一つだけそびえ立っている電灯では、クモの巣に絡まった蛾がジタバタともがいており、辺りの奇妙な雰囲気と相まって、一層恐怖心を掻き立てられた。

T「なあ、帰ろうぜ。」
Tが呟いた。Tの顔色は青ざめており、少し心配になったが、俺はせっかく来たんだから行こうぜ、という感じで進んでいった。
一緒に来ていたAとSは、意外とヘラヘラしていて楽しそうだった。

階段を上がると薄汚れた小さな鳥居があった。少し怖くなった俺はゴーストバスターズのテーマを歌いながら、図々しくも鳥居の真ん中を通っていった(真ん中を通っては行けないという話は知っていたが、俺は神なので大丈夫だ、という謎の自信があった)。

鳥居を抜けると、何やら祠のようなものがあったが、真っ暗だったのでよく分からなかった。さらに奥には建物の骨組みのようなものもあったが、特に面白そうなものは無かった。さらに奥にも行けそうだったが、暗すぎて危険だと判断したため、引き返すことにした。すると、Aが突然、「誰か前から来るぞ。」と言った。

目を凝らして暗闇を見つめてみると、確かに3人ほど向こうから歩いてくる。ライトの様なものを持っているようで、時々こちらを照らしている。俺達の他にも来た奴らがいるのか、と思いながら入口のあたりまで戻った。

おかしい。確かに前から誰か来ていたはずなのに、誰ともすれ違わずに入口まで戻ってきてしまったのだ。道は一直線のはずだし、わざわざ森の方に逸れていくなんて有り得ない。俺とAとTは困惑した。Sはそもそも人なんか見えなかったと言っていた。

途端に怖くなった俺は鳥居に向かって塩をぶちまけ、みんなで車に戻った。Tがエンジンをかけようとしたその瞬間、神社の方から「ガラッ」という謎の音がした。俺達は叫んだ。Tは急いで車を発進させた。車から後ろを振り返ると、入口のあたりに何か茶色い奴がいるように見えたが、木かなにかの見間違えだと思った。

俺達は一目散に俺の家へ逃げ込んだ。俺の部屋でダラダラしていると、Tが口を開いた。
「あの、俺さ・・・入口の所で、妙なもん見ちまったんだよ。」
Tの顔は青ざめていた。
S「おい、やめろよ、そういうの。眠れなくなるだろ。」
Sは冗談半分で返事をしたがTは至って真剣な様子だった。AもTの表情を見てただならぬ何かを感じ取っていた。
T「俺、あの鳥居のところで、水色の顔を見た。」

水色の顔・・・。Tの口からはそれ以外何も語られず、そのうちフラッと帰ってしまった。俺は怖かったので3人に泊まっていって欲しかったが、AとSも逃げるように帰っていった。なんだか止めるに止められなかった。

暇になった俺は横になって、いつの間にか眠ってしまっていたが、朝の4時ごろ目が覚めた。体が動かなかった。金縛りだ。ちなみに、俺はよく金縛りになる。金縛りには慣れていたし、特に変な物を見たことも無かったので、霊的な物との関連性は信じていなかった。

でも、この時は違った。耳元で男の声が聞こえたのだ。何と言っていたかは覚えてない。怖くなった俺は目を閉じてとりあえず暴言を吐いた。
俺「こ・・・の・・・クソ・・・野郎・・・!!ゴミ・・・カス・・・ババァ・・・・・・!!!」
暴言を吐けば楽になると思ったが、思うように喋れなかった。しかし男の声はもう聞こえなかったので安堵して目を開けた。

俺の目の前に、真っ黒な体をした男が立っていた。顔はオレンジ色で、後ろが透けて見える。体だけが、真っ黒だった。身長は3メートルほどあるように見えた。俺は声が出なかった。その男は俺をじっと見つめていたと思うと、オッサンみたいな声で急に笑い出した。

「はっひゃっはっはっはっはっはっはっひゃっはっはっはっはっはっひゃっはっはっはっはっ」
俺「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
目が覚めた時には朝だった。あの男は、夢だったのか、何だったのか、未だにわからない。でもその後の生活に変化もないし、夢だったということにしている。というか、夢だと思いたい。

あれ以来俺はTとドライブに行くことは少なくなった。

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