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坂道に立っている女

2020/09/04

3年前、実家に帰省したときの話。
実家の近所に100m位のわりかし急な坂がある。
道の横は両方土手で、
人が落ちないように1m程度の石塀が立ってる。
ちょうど夕焼けで辺りが微妙に暗い時間ってあるでしょ。
そんな時間に用事があってその坂をのぼってたのよ。
こんな時間だし、実家は田舎だから
俺以外の通行人はいなくて。

そうしたら坂のてっぺんに
こっちに背を向けた髪の長い女が立ってるのね。
別に立ってるだけだから普通なんだけど、
何か気になって視線が外せなくなった。
女がくすんだ薄ピンクのスーツを着てるのが
認識出来るくらいまで接近しても、
俺は女の後ろ姿を見続けた。
そんで女もピクリとも動かないのよ。
髪は風でふらーっとなびいたりはしてるけど。

10m位まで接近して、もういい加減見るのよそうと思って
視線逸らそうとしたとき。女の首がガクンって
180度真後ろに倒れてきた。
俺はぎょっとして一歩引いたよ。
表情は見えなかったけど、見えなくて正解だったかも。

しかも女は後ろ向きのまま(顔はこっち向きだけど)
すたすたすたすたとこっちに向かってきやがった。
俺は背を向けて走り出した。
下り坂だしあっちは早歩きだから逃げられると思って。
でも走ってる間なんでか俺は
女に追いつかれそうになってることに気付いてた。
その通り、女はカッカッカッと足音を立てながら
俺に追いつき……そのまま抜いていった。
抜かれたときに女が通ってった右側の腕と頬に
ざわ~っと鳥肌がたったよ。
それでもはぁ助かった…と思って立ち止まって
息を付いて……
息が止まった。
女が坂の下に立ってた。
最初と同じく、背をこっちに向けて。
首は普通に戻ってた。
まさか……そう思った通り、また女の首がガクッと倒れて
こっちに向かって歩いてきた。

冗談じゃねーよと思って俺は回れ右して
今度は坂を駆け昇った。
さすがにさっきよりペースダウンしてて、
これじゃ簡単に追いつかれちまうって思ったんだけど、
今度はなかなか来ない。
足音はするんだけど。
あと坂の出口まで10m位まで来て、
今度は平気か?と思った直後、女は俺を追い抜いていった。
上を見ると案の定おんなは頂上で背を向けて待っていた。
仕方なく俺は背を向けて坂を駆け下り……
ってのを二往復して、
さすがにへとへとになった俺は強硬手段に出た。

塀を乗り越えて土手に降りたのよ。
今思えば最初からこうしときゃよかったかも。
勢い余って5m位滑り落ちたけどなんとか持ちこたえて。
坂まで戻って怖々塀から覗いてみたけど、女はいなくなってた。
でもなんか道に戻るのがイヤで、土手沿いに歩いて帰ったけど。

今でもちょっと坂道はやだね。
坂道全力疾走したのなんて後にも先にもこれだけだよ。

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