日本にいないはずのものが憑いている
2020/05/03
今から20年近く前、長野県中部をツーリング中に側道を見つけて、気まぐれに入りました。
道は農道らしく、畑と森の広がるのどかな風景の場所につながっていました。景色を堪能しながらトロトロ走っていると、轍の間に溜まった泥で滑って派手に転倒しました。幸い擦り傷で済みましたが、バイクを立てて再出発しようとしたところ中々エンジンがかからず、弱ったなあと思いつつメットを取って一息つきました。
何か気配というか、違和感を感じました。快晴ののどかな畑風景が、急に不気味な物に感じられたのです。
(キリン・・・?)
今思うと間抜けな感想ですが、一目見た時はそう思いました。自分がこれから行こうとしていた道の100mほど先に、電柱ほどの高さの黒いモノが歩いていたのです。目を凝らすと、体は毛なのか真っ黒ながら人間並ですが、首は体の5、6倍はあるかという長さで、首の先に頭らしきものがあり、簾のように毛が何本も垂れていました。そして、マズイことに、そいつは私を見ていて、こちらに真っ直ぐ向かっている事が本能的に理解できました。
急いでバイクの向きを変え、必死でエンジンを掛けようとしました。バイクを置いていこうとは思いませんでした。バイク無しでは追いつかれる、そんな確信があったのです。セルを回す私の後ろから、かすかにお経のようなものが聞こえてきました。ようやく言葉をしゃべれるようになった幼児がお経を真似るような声でした。あいつの鳴き声だと感じました。私のすぐ後ろまで来ているのが分かりました。
「○×△☆」
フルフェイスのメット越しに、そいつが私の耳元でなにか囁いたのが聞こえました。その瞬間エンジンがかかり、私はとにかく遠くに離れようと一心不乱に逃げました。市街地に出てコンビニにバイク止めた途端、涙が止まらなくなってそこで号泣しました。
それから10年ほど後、つまり今から10年前、前年に結婚した私は遅めの新婚旅行にでも行こうと正月に沖縄に行きました。アメ横を探索していると占いの露店を見つけ、軽い気持ちで占ってもらいました。
50代くらいの占い師の方が、開口一番「外国を旅した経験は?」と尋ねてきました。
「いえ、ありません」
「本当に?」
「どうしてですか」
「日本にいないはずのものがくっついてる」
商売言葉だと思って軽く流しました。その後は結婚生活とか占ってくれて、まあありきたりな事を言われました。
そして現在。この間妻が「こんなの見た事ある?」といってメモ帳に絵を書いて見せてきました。20年前に農道で見たあいつでした。
10年前に占いをしてもらった後、妻は占い師から同じ絵を描いて渡されて、「旦那さんにはこんなのが憑いている。結婚した矢先に不安がらせることはしたくないが、どんな影響があるか分からないから、気を付けてくれ」と言われたらしいのです。
私は正直に20年前に農道で会った事を話しました。誰かに話したのは初めてでした。妻はそれを聞くと、「じゃあ私も正直に話す」と言って続けました。
結婚して数年後、妻は流産しました。妊娠が分かって数日後、妻は夢であいつに出会ったそうです。あいつは遠くから意味の分からない歌を歌いながらゆっくり歩いてくると、長い首を傾けて妻の腹を左右から交互に覗きこみ、その後同じようにゆっくりと去って行ったそうです。
私達夫婦は結局子供は諦めました。妻の事は今も変わらず愛しています。しかし、妻が望むなら私はいつでも彼女と別れようと思っています。一度ネットで調べて高名なお寺にお祓いに行きましたが、「根付いている」と言われました。