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晴美の末路

2019/11/07

へへへ、おはようございます。
流石に皆さん怖い話をしなさる。
今日は生憎天気が悪いようで。
あの時も丁度今日みたいな雨空だったな。
あ、いえね、こっちの話でして。
え?聞きたい?そんな事誰も言ってない?はぁはぁ、すみませんね、私も毎日苦しくて。
正直この話を誰かに打ち明けないと気が狂いそうでして。
それでは、早速暇つぶしにでもお読み下さい…へへへ。
もう10年ほど前になりますかね。
当時、私はとある地方の寂れたスナックで働いてましてね。
そこで、店の女の子の1人と良い仲になっちまったんですよ。
ま、良くある話です。へへへ。
アパートに同棲してまして。
スナックのママも他の従業員もみな承知の上でしてね。
まぁそこそこ気楽に楽しく暮らしてましたわ。
しかし、この、仮に晴美としましょうか。
晴美はかなりのギャンブル狂でして。
パチンコ・競馬・競艇・競輪・ポーカー・マージャン、なんでもござれでして。
これが勝ちゃ良いんですが、弱いんですよ。
賭け事にも才能ってありますよね。
案の定、借金まみれになっちまった。
それでも何とか、働きながら返してたんですよ。
え?私はどうかって?私はあなた、ギャンブルなんてやりませんよ。
そんな勝つか負けるか分からないのに大金賭けられますかいな。
以外に堅実派なんですよ。へへへ。

…話を戻しましょうか。
同棲しだして、2年ほど経った頃でしたかね。
とうとう、にっちもさっちも行かなくなっちまった。
切羽詰まった晴美は、借りちゃいけない所から金借りちゃったんですよ。
まぁヤクザもんですよね。
ある夜、アパートに2人でいる時に、男が2人やって来ましてね。
見るからにそれモンですよ。
後は大概、お分かりですよね?TVや映画で良くある展開と同じですよ。
笑っちまうくらい同じです。
金が返せないのなら、風俗に沈める、の脅し文句ですよ。
それでも晴美は1週間、1ヶ月待って下さい、と先延ばししながら働いてましたよ。
え?私?私は何も出きゃしませんよ。
ヤクザもんですよ?とばっちりは御免です。
え?同棲しておいてそれはないだろうって?はぁはぁ、ごもっとも。
でもね、皆さんもいざ私のような環境に置かれると分かりますって。

ある夜、いつもの様にアパートに取立てがやって来ましてね。
所がちょっと様子が違うんですよ。
幹部って言うんですか?お偉いさん来ちゃいまして。
一通り晴美と話した後、つかつか~と私の方にやって来まして、お前があいつの男か?と聞くんですよ。
ここで違う、とは言えませんわね。
認めると、お前にあいつの借金の肩代わりが出来るのか?と聞くんですよ。
出来るわけないですよ。
その頃には借金1千万近くに膨れ上がってましたからね。
当然無理だと言いましたよ。
そしたらその男が、あぁ、今思えば北村一輝に似た中々の良い男でしたね。
あ、へへへ、すみません。話を戻しましょうか。
その男が、ならあの女は俺らがもらう。ってんですよ。
仕方が無いな、ともう諦めの境地でしたよ。
私に害が及ばないのであれば、どうぞご自由に、と。
え?鬼?悪魔?鬼畜?はぁはぁ、ごもっとも。
でもね、水商売なんて心を殺さないとやってけないんですよ。
晴美に惚れてたならまだしも、正直体にしか興味ありませんでしたからね。
え?やっぱり鬼畜?はぁはぁ、結構です。

それでもって、男が妙な事を言い出したんですよ。
あの女の事を今後一切忘れ、他言しない事を誓うならば、これを受け取れ。
と言うと、私に膨れた茶封筒を差し出したんですよ。
丁度百万入ってましたよ。
でもね、嫌じゃないですか。
ヤクザから金もらうなんて。
下手したら後で、あの時の百万利子つけて返してもらおうか、
何て言われちゃたまりませんからね。断りましたよ。
そしたら、その幹部の連れのチンピラが、ポラロイドカメラでもって私を撮ったんですよ。
そしてその幹部が、この金を受け取らなかったら殺す、って言うんですよ。
何で私がこんな目に、と思いましたよね。
渋々受け取りましたよ。
そして、もし今後今日の事を他言する様な事があれば、お前が世界のどこにいても探し出して殺す、と。
その時、私は漠然とですが、晴美は風俗に沈められるのでは無く、他の事に使われるんだな、と思ったんですよ。
もっと惨い事に。

晴美はある程度の衣服やその他諸々を旅行鞄に詰め込み、そのまま連れて行かれました。
別れ際も、私の方なんて見ずにつつ~と出て行きましたね。
結構気丈な女なんですよ。
1人残されたアパートで、私はしばらくボーッとしてました。
明日にでもスナック辞めてどこかへ引っ越そうと思いましたね。
嫌ですよ。ヤクザに知られてるアパートなんて。
ふと、晴美が使っていた鏡台に目がいったんですよ。
リボンのついた箱が置いてあるんです。
空けて見ると、以前から私の欲しがってた時計でした。
あぁ、そういえば明日は私の誕生日だ。
こんな私でも涙がつーっと出てきましてね。
その時初めて、晴美に惚れてたんだな、と気がつきました。

え?それでヤクザの事務所に晴美を取り返しに行ったかって?
はぁはぁはぁ、映画じゃないんですから。
これは現実の、しょぼくれた男のお話ですよ。
翌日、早速スナックを辞めた私は、百万を資金に引っ越す事にしたんです。
出来るだけ遠くに行きたかったんで、
当時私の住んでた明太子で有名な都市から雪祭りで有名な都市まで移動しました。
そこを新たな生活の場にしようと思った訳です。
住む場所も見つかり、一段落したので、次は仕事探しですよ。
もう水商売はこりごりだったので、何かないかなと探していると、
夜型の私にピッタリの、夜間警備の仕事がありました。
面接に行くと、後日採用され、そこで働くことになったんですよ。

それから約10年。
飽きっぽい私にしては珍しく、同じ職場で働きました。
え?晴美の事?時々は思い出してましたよ。
あの時計はずっとつけてました。
北国へ来てから新しい女が出来たり出来なかったりで、
それはそれで、楽しくは無いですが平凡に暮らしてましたよ。
私、こう見えてもたま~にですが、川崎麻世に似てるって言われるんですよ。
え?誰も聞いてない?キャバ嬢のお世辞?はぁはぁ、失礼しました。
それで、つい1ヶ月前ほどの話です。
同僚のMが、凄いビデオがある、って言うんですよ。
どうせ裏モンのAVか何かだろうと私は思いました。
こいつから何回か借りた事があったので。
そしたらMが、スナッフビデオって知ってる?って言うんですよ。
私もどちらかと言うと、インターネットとか好きな方なんで、暇な時は結構見たりするんですよ。
だから、知識はありました。
海外のサイトとか凄いですよねぇ。実際の事故映像、死体画像、などなど。
で、ある筋から手に入れて今日持って来てるんだが見ないか?ってMが言うんですよ。
深夜3時頃の休憩時間でしたからね、
まぁ暇つぶしくらいにはなるだろうってんで、見ることにしたんですよ。
私は、どうせフェイクだろうと疑ってかかったんですけどね。
ビデオをデッキに入れ、Mが再生ボタンを押しました。
若い全裸の女が、広い檻の中に横たわっていました。
髪の毛も下の毛も、ツルツルに剃りあげられていました。
薬か何かで動けなのか、しきりに眼球だけが激しく動いていました。
晴美でした。

私は席を立ちたかった。
でも何故か動けないんですよ。
やがて、檻の中に巨大なアナコンダが入れられました。
何か太いチューブの様な物を通って。
大げさじゃなしに、10m以上はあったんじゃないでしょうかね。
それはゆっくりと晴美の方に近づいて来るんですよ。
Mが凄いだろ、と言わんばかりに得意げに私の方を、チラチラと横目で見てきます。
それは、ゆっくりと巨体をしならせ、晴美の体に巻きつきました。
声帯か舌もやられてるんでしょうか、晴美は恐怖の表情を浮かべながらも、声ひとつあげませんでした。
パキパキ、と言う野菜スティックを2つに折った様な音がしました。
晴美の体が、グニャグニャとまるで軟体動物の様になっていったんです。
10分ほど経ったでしょうか。
それが大口を開けました。
晴美のツルツルになった頭を飲み込んだんですよ。
ここからが長いんだ、とMは言い、早送りを始めました。
それは、晴美の頭部を飲み込み終えると、さらに大口を開け、今度は肩を飲み込み始めました。
胴体に達したとたん、テープが終わりました。
続きが、後2本あるんだ、とMが言ったんです。
もういい、と私は言うと、逃げるようにビルの巡回に戻りました。

それからなんですけどね、いつも同じ夢を見るんです。
晴美の顔をした大蛇が、私に巻きつき、締め付けてくるんですよ。
そして体中の骨を砕かれ、頭から晴美に飲み込まれるんです。
凄まじい激痛なんですが、逆にこれが何とも言えない快感でしてね。
晴美の腹の中でゆっくり溶かされ始める私は、まるで母親の胎内に戻った様な安心感さえ感じるんですよ。
え?そのビデオはどうしたかって?Mから私が買い取りましたよ。
それこそ、給料何ヶ月分かの大枚はたいてね。
3本全部見て、少し泣いた後、私は全てビデオを叩き壊しました。

それで、深夜仕事をしてると、晴美を感じるんですよ。
ビルなどの屋内を1人で見回るでしょう?
すると、後ろからピチャピチャと足音が聞こえてくるんですよ。
振り返ると、誰もいない。
でまた歩き出すと、濡れた雑巾が床に叩きつけられる様な音で、ピチャピチャと。
晴美かな、と思うんだけれども、一向に姿を現さないんですよ。
感じるのは気配と足音だけ。
そんな事が数日続き、流石に精神的にまいってしまいましてね、
今現在、休暇と言う事で仕事を休んでるんですよ。

3日前です。
とうとう晴美が現れたんですよ。
深夜、自宅のベッドでボーッと煙草をふかしていたら、白い煙の様な物が目の前に揺れ始めたんですよ。
煙草の紫煙かな、と思ったんですが、動きがおかしい。
まるで生きてるように煙がゆ~らゆ~らと形をとり始めたんですよ。
晴美でした。
既に溶けかかり、骨が砕けた全身を、マリオネットの様に揺らし、
「まだある」方の眼球で、私を見つめてきました。
何かを言いたげに口を動かしていますが、舌が無いのか声帯が潰されているのか、
声にならない声で呻いていました。
どの位の時間が経ったでしょうかね。
いつの間にか晴美は消えていたんですよ。
恥ずかしい話、私は失禁と脱糞をしていました。
はぁはぁはぁ、汚くてすみませんねぇ。
次の日の夜も晴美はやってきました。
もう私はね、晴美に呪い殺されてもしょうがないんじゃないかと思い始めてましてね。
晴美が再び現れるのを心待ちにしてた部分もあったんです。
やはり、晴美は何か言いたげに口を動かしています。
私は駆け寄り、何が言いたい?私はどうすれば良いんだ?
時計、時計、時計ありがとう、あの時何もしてやれなくてすまない、
時計は大事に持ってる、時計は、時計は。
半狂乱のまま、私は叫び続けたんです。
すると、晴美が折れた首を健気に私の方に近づけて、言ったんです。
途切れ途切れながらも、ハッキリと聞き取れました。

「わたし、あんたのこどもほしかったな」

今日も夜が来る。

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