カメと友達
2019/07/10
19の時のお話です。
友達と私の三人で東北地方へ旅行に行きました。
観光地、そうでない場所、いろいろ回りました。
ふるいのどかな景色が綺麗で寄った、
山みたいになった場所でのことです。
ふもとに車を止め、山(と言うには緩やかでしたが)を登り
田舎の風景に浸りながら、
登ったのとは別の道を私たちは下りてきました。
ふもとが近づいたころ道の左手に溜め池のようなのが現れ、
そこには漢字の『圧』の字に小さな橋が掛かっていました。
池なのか小さな湖だったのか判りません。
大きな鯉が沢山いて、
その景色の綺麗さに私たちは目を奪われました。
中でも驚いたのは、
『土』の字の縦棒の根元左付近にいた大きなカメでした。
大人の背丈よりもありそうな、それも海亀だったのです。
(この時点でおかしいのですが、
その時はなぜだかヘンだと思わなかったのです)
池には子供が幾人も降りています。
田舎らしいのどかな風景。
友達の一人がそれを見て安心し、
「カメに触ってみたい」
と言って橋へ降りていきました。
(私たちが下ってきたのは池からは大分高い位置になり、
ちょうど土手のようだったのです)
降りた友達は背の高いほうで、
しゃがんでも小さくはないのですが、
橋から手を伸ばし撫でている友達を目安に、
カメは随分大きく見えました。
「大きいねー」
「ねー」
そんなことをぼんやり口にし、
上に残された二人はそのあとしばらく(と言っても十秒くらい)
道行く田舎の地元の人を、何となく眺めていました。
それから下へ視線を戻すと、カメと友達がいないのです。
あれっ、どうしたんだろ・・?
上からは池の端、
つまり私たちの立っている場所の下のほうがよく見えないので、
トンネルみたいになってるのかなと思ったり、
そんなに驚きはしませんでした。
ふと視線をこれから私たちが下っていく先へ向けました。
するとどうでしょう、友達が黒いボロボロの和装をして、
背を向けふらふらと目の前を歩いているのです。
着物だか浴衣だか判らないほどボロボロになった服には、
字の書いた紙がべたべたといっぱい貼られていました。
変な話『差し押さえ』の紙が貼られた物件のようでした。
ちょっとちょっと!
慌てて呼び止めたのですが、友達は放心状態です。
どうしたの?何があったの?なんでそんなの着てるの?
私たちも動揺を隠せず、矢継ぎ早に問い質しました。
でも友達はさっぱり要領を得ません。
「あァ、うん・・」
と反応はするし、
私たちのことも分かるのですが、口篭るのです。
ふらふらとしてましたが怪我をしている様子は無いので、
この会話は歩きながら交わされました。
なおも話し掛けると、友達は何だかひどく苛々してきて、
「気がついたら藪に寝てたの!」
聞くと、藪にこの服装で寝ていた友達は、
半ば放心状態で山を下りてきたところを、
背後から私たちに呼び止められたのだそうです。
(これも要領を得ない中から断片的に聞けたのを繋ぎ合わせただけなので、
事実ではないかも知れません)
話が聞けた時点で、まだ左に池が見えています。
言うまでもなく私たちは三人一緒に山を下りてきました。
服装も今のです。
(いわゆる洋装。当たり前ですが)
山と言うほど高くなく時間もかかる行程じゃなかったので、
私以外は手ぶら。
その友達も手ぶらでした。
だから友達がいたずらで驚かそうとしても、
そんな着替えが隠し持てるわけがないのです。
それと、友達から目を離していた時間は
自分の感覚じゃ十秒くらい。
実際は三十秒くらいあったとしても、
それだけの時間で着替えが済むとは思えません。
そんなことやる意味も無い。
その日は宿に直接帰って、友達を落ち着かせました。
幸い怪我は無く、残りの旅程もこなせて、
あれから年数経った今も友達は元気です。
(頭もいい)
でもあの時の話をするとイヤに不機嫌になるので
(なんでそんなに?と思うくらい)、あまり聞けません。
友達の態度(今もね)を含め、私には本当に不可解な出来事でした。
池は『圧』の字に組まれた橋で仕切られていました。
全部で四つに分かれていて、でも左下に子供はいません。
入ったのは友達だけ。
これが出来事に関係あるかは判りませんが、一応書いておきます。