独立記念日
2019/07/07
当時私は衣料買い付けの仕事で
各国を訪問していました。
その頃は日本で空前の古着ブーム。
私は北米地区担当として、
ほとんどアメリカ全土を周っていました。
リーバイス501のレア・モデルが
大量に在庫されているうわさを聞きつけて、
ジョージア州アトランタに飛んだのは
初夏を過ぎた6月末のことです。
事前にアポを取り付けていたにもかかわらず、
先方の担当者が長期休暇で不在。
商談は難航しましたがなんとか契約に漕ぎ着け、
一安心して宿泊先の安モーテルに帰ったのは深夜でした。
日本への報告を済ませ、
シャワーを浴びようとバス・ルームの灯りを点けた時、
私の後ろに男が立っているのが鏡に映りました。
「!?」
強盗だと思い、あわてて振り返るとだれも居ません。
しかし鏡には私とその後ろに立つ男が
しっかりと映っています。
不思議な事に恐怖感はありませんでした。
そもそも心霊話、怪談の類は昔から好きでしたので、
私は男の観察を始めました。
男は立派な髭をたくわえ、昔の軍服を着ています。
その軍服はあちこちがボロボロで、
肩と腹のところが赤黒く汚れていました。
片目はありません。
残った方の目は綺麗な緑色だったのですが、
とても悲しそうな目でした。
見ているうちに私の目から涙があふれてきました。
恐怖ではなく、
強い悲しみの感情が湧き上がってきたのです。
どのくらいの時間が過ぎたのか・・・
男が「スゥ」と部屋の窓を指差してそして、消えました。
涙をタオルで拭きながら窓のカーテンを開けると、
部屋の真向かいの草原を兵隊たちが行進していました。
その日の日付ははっきりと覚えています。
七月四日。独立記念日でした。