死んだ奥さんが使っていた箪笥
2019/07/06
かなりほんのり。
高校時代の英語教師に聞いた話。
判りやすい授業と淡々としたユーモアが売りで、
生徒と余り馴れ合う事はないけれど、中々人気のある先生でした。
昔奥さんが死んだ時、
(話の枕がこれだったので、そんな事実初耳だった我々は、その時点で相当びびり気味だったのですが)
彼はよく不思議な幻を見たそうです。
それは、もう使う人のない奥さん用の箪笥の引き出しが開き、
そこから奥さんが頭半分を出して、ベッドに寝ている先生を見ているというものでした。
彼は「ああ、家族の死で私は精神的に不安定になっているのだな」と病院へ行き、
精神科などに相談し薬などを出してもらい、なるべく疲れないよう、ストレスをためない様にしてみましたが、
奥さんは相変わらず夜になると箪笥の引き出しに姿を現し、微妙なポージングで彼を見ていたそうです。
精神的なものでないのなら、現実に起こっている事だと判断した先生。
ある時その箪笥の引き出しに体を入れ、
全身でがたがた揺すりながら、長い時間をかけて引き出しを閉めてしまったそうです。
そこで長い事待っていると、「あら」とかなんとか、奥さんの声がしたそうです。
思えばリアクションを用意していた訳ではない先生。
(「冷静なつもりが矢張動揺していたんですね」とか言ってました)
困っていると、奥さんが「あなたは太っているから、ここじゃ無理よ」等と言い、
先生もそうだなあと思い、またがたがたやって出たそうです。
因にその箪笥はまだ先生のうちにあり、
疲れた時などに、奥さんが登場しているのが寝入りばな見えるとの事でした。
『いい話』ではなく『ほんのり』にしたのは、この話の締めとして、
「私は大丈夫だったけれど、気弱な人だったら、
引き出しに入ったまま死んでもいい、と思ってしまうかもしれない居心地の良さでした」
と淡々と語っていました……。
更に、まだ箪笥をお持ちという事が自分的にほんのり。