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立ち止まれ!

2019/06/16

小学2年生のときの話。
オレはその日、学校帰りに同じクラスのS君と遊んでいた。
そのS君は特別仲がいいわけではなかったけど、
何回かは彼の家にも遊びに行ったし、オレの家に招いたこともある、
親しい友人のひとりだった。
二人は、ある人けのない、古いアパートの敷地内にいた。
アパートの一階部分の、横並びのドアの前。
そこ敷かれたコンクリの歩道の上に座り込み、何かの遊びをしていた。
(何をしていたかは、はっきり思い出せず)
しかし、しばらくするとオレは、
アパートの二階の部分に何かあるような気がし出してきて、
それが気になって仕方なくなってきた。
そんな中、S君が「うえ(二階)…なんだろう?」とポツリと言い出した。
へんな気分がしたのは俺だけではなく、
彼もその得体の知れない雰囲気を感じ取っていたのだ。
二人ともどうしても二階が気になり、
S君は「ちょっと見に行ってみよう」と言い出して立ち上がった。
S君がカンカンと音を立てながら、壁つたいに設けられた鉄の階段を登っていき、
その後をオレがついて行く。
S君が階段を登りきって、二階の廊下を曲がって見えなくなったその瞬間、
オレは階段の途中で立ち止まってしまった。
特に異変が起こったというわけでもないが、オレの体の中で、
警報ベルのようなものが激しく鳴り響いた。
『立ち止まれ!』と、オレ自身の体の中の何かが、強く命じてくるような感じだ。
しばらく、そうして階段の途中で立ち止まったままだったが、S君が戻ってこない。
声もしない。
オレはやっぱり二階に行こうかと、階段を再び登りだそうとしたが、体が動かない。
金縛りのような身体的感覚ではなく、
『絶対にそれ以上進んじゃダメだ!!』という、強い精神的な感覚に襲われた。
オレは、怖くなってそのままS君のことを無視して家に帰ってしまった。
次の日、学校にS君は来なかった。
オレは一晩たって恐さが薄れてしまったし、子供の短絡した頭脳。
「風邪か何かで休んだんだろう」程度にしか、そのときは考えていなかった。
しかし、1週間たってもS君は来ない。
さすがにどうしたんだろうか?と気になり、
クラスメートに「Sどうしたんだろうね?」と聞いてみた。
だが聞かれたクラスメートは、「Sって誰?」と不思議な顔をした。
誰に聞いても同じで、S君のことなど知らないという。
そういえば、担任も休んでいるににもかかわらず、
S君のことなど口にしていないし、
S君が座っていた机には他の奴が座っている。
家に帰って、母親に
「Sが学校に来なくなったんだよ」
と話してみたが、母親も
「誰なのその子?」
とという表情。
「前に家に連れてきたでしょ?」
と言っても、まったく覚えていないという。
小学生のオレは時間の経過とともに、
大の仲良しというわけでもなかったS君のことなど次第に忘れていき、
そのまま小学校を卒業。
しかし、中学生になったあるとき、ふとS君のことを思い出した。
「彼、どうしたんだろう?」
と気になり出し、何人かの友人にS君のことを聞いてみたが、やはり誰も知らない。
問題のアパートはもう取り壊されて、その一帯はダンボール工場の倉庫になっていた。
遊びに行ったことのあるS君の家を、見に行ってみようと思ったが、
途中までの道筋は思い出せても、どうしても詳細な位置がわからない。
家にあった小学校の卒業アルバムも見てみたが、
巻末の住所録にもS君の名前はない。
どうしようもない不安に駆られ、オレの家のアルバムも引っ張り出し、
小学校の頃の写真を探索。
でも、そこにもS君の姿はない。
小学2年生の春に行った、森林公園の遠足の集合写真にもS君がいない。
その遠足では、森林公園の中の立ち入り禁止の区域にS君ら数人と入って、
担任にこっぴどく怒られた記憶が確かにあったので、
間違いなくS君はこの集合写真にいるはずなのだけど・・・。
そして、現在。これまでの間、S君のことを時々思い出すけど、
いまでもまったく不可解でならない。
確かに、オレの記憶の中にはS君は実在した。
顔も覚えているし、数回遊んだことも、
現実の世界の出来事だったと断言できる。
いったい、S君はどこに行ってしまったのか?
みんなの中から、何故S君の記憶が消滅してしまったのだろう・・・
長文スマソ。
でも、いまでも本当に、このことが恐ろしくて仕方がない。

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