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幕屋

2019/06/05

小学校4年生の時だから、
もうだいぶ前のことだな。
当時俺の町では小学校の合併があり、
俺のいた小学校が建て増しされて、
別だった学校のやつらが移ってきたことがあった。
それで新しい友だちが数人できて、
家に遊びにいったりしたけど、
そいつらの地区は同じ町内でも行ったことがない場所だったんで、
最初のうちはけっこう新鮮な体験だった。
5月だったと思うが、日曜日の午後にその地区で遊んで、
家に帰る途中でどしゃ降りの雨になった。
時間は、6時まで家に帰らないと怒られてたから
たぶん5時過ぎくらい。
叩きつけるような大粒の雨で、
どっかで雨宿りしようかと思ったけど、
まだコンビニもない頃で・・・
そうしたら幕屋が目に入った。
幕屋というのは、
俺らの町はお地蔵さん信仰が盛んで、
町内の地区ごとにあって、
月当番を決めてお祀りする地蔵様のお堂のことだ。
たいがいは辻脇にあって、
数本の杉の木もいっしょにある。
月当番の家では、
火の始末やお供え物の片付けなんかをする。
今から思えば、2間に4間くらいの細長い建物で、
お地蔵さんが地区によって違うけど5~10体くらいある。
屋根はあったけど長辺の壁がなく、
そこに赤い幕が下がってるから幕屋。
そこで雨宿りしようとして走り込んで
幕をめくったとたん、あっと思った。
お地蔵さんがあるはずの木枠の中に
ぎっしりオムツもしていない裸の赤ちゃんがひしめいていたんだ。
何十人という数で。
さらに不思議なのは、その中に、
赤ちゃんくらいの大きさで手足もあるんだけど、
色は真っ黒で、ふつう頭のある場所が
象の鼻みたいになってる生き物?が、
5~6人?くらい混じっていたことだ。
俺が幕をめくったまま固まっていると、
てんでに泣いたり隣の子に抱きついたりしていた赤ちゃんたちが、
いっせいに静まって俺のほうを見たんだよ。
さらにその黒い生き物も象のような鼻の先を
俺のほうに向けている。
なんとか後じさりしてひっこんだけど、
ウッそだろ~と思ってもう一回幕をちょっとだけずらしてみると、
中の赤ちゃんはみんな消えてて、お地蔵さんが七つくらいあった。
気味が悪かったんで、
結局そこでは雨宿りはせずにずぶ濡れで帰った。
家で当時まだ健在だったジイサンにそのことを話しても、
どういうことなのかわからずじまいだったな。

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