マイキー
2019/05/28
僕の父親は米国と日本人のハーフ(祖父が日本人で祖母が米国人)なんだ。
昔の話になるけど、父親から聞いた不可解な話を書いてみます。
父親が小学校の時に母親(僕からするとお婆ちゃん)が事故で死んだ。
父親は一人っ子だから家族三人で東京に住んでいた。
仕事の都合もあり、父親とお爺ちゃんで関西圏へ引っ越しした。
お爺ちゃんは体が弱く、
お婆ちゃんの稼ぎもなくなったから、生活は貧困を極めた。
また、差別もなく、東京で友達と元気いっぱい遊んでいた父は、
その白人ゆえの独特な風貌が田舎では相当目を引くらしく、
引っ越し先では全然受け入れられなかった。
『マイキーが引っ越し先で友達百人できますように!』
『マイキーくん大好きだ!東京に帰ってきたら絶対に遊ぼう!』
『マイキーなら大丈夫だよ!』
と、みんなが書いてくれた色紙を三畳半の自宅で見つめ、
父は毎日泣いていたという。
そんなある日々、
マイキー(面倒だからマイキーに統一します、僕の父さんです)は、
トボトボと河川敷を歩いて一人で帰っていた。
可愛い猫がいた。
動物、とくに猫が大好きなマイキーは嬉しくなり、猫を追い掛けた。
猫はビニールテントに入った。
今でいうホームレスのお家だ。
そこには誰も居なかった。
中は片付いていたが、汚いコタツと汚い家具等々しかなく、
マイキーは内心ギョッとしてた。
しば~らく猫を撫でていると、
七十代くらいのお爺さんが入ってきた。
ここに住んでいるらしい。
お爺さんは耳が聞こえないらしく、
ニコリとお辞儀すると黙ってコタツに入った。
マイキーはやさしい眼差しであるお爺ちゃんに、
徐々に心を開きました。
数日間通ってみて、自分の話をしてみようと思いました。
亡くなった優しい母親のこと、
自分のために汗まみれで働きまくる父親、
学校で馴染めない自分…
お爺ちゃんは耳が聞こえてないはずなのに、
無言でコックリコックリ頷きます。
お爺ちゃんから何らかのアドバイスがもらえると思っていましたが、
お爺ちゃんは黙っていました。
マイキーが無言で猫を撫でていると、
お爺ちゃんが小さな鈴を渡してきました。
マイキーは鈴の音が心地よく、
すこし気分が上がるのが分かったそうです。
「ありがとう」
と言い、その日は帰りました。
次の日、学校へ行くと、
ランドセルに付けてみた鈴をクラスメートたちが褒めてきました。
「この鈴、なんや音がキレイやん!」
「ちびっこくてカワエエなあ~!どこで買うたん?」
何人かのクラスメートと会話も弾み、
マイキーはだんだん会話する友達ができた。
少し日にちが経ってから、
クラスメートに河川敷のお爺ちゃんに貰ったんだと打ち明け、
二人で河川敷に言ってみた。
例のビニールテントがあったので中へ入った。
そこには例の猫とその横に薄汚れた猫が、二匹並んで寝ていた。
クラスメートは「あっ!」と声を出した。
「俺、この猫知ってんで。この右側の猫な、耳聞こえてないねん」
マイキーはビックリして、反射的に二匹の猫を触ってみた。
猫はピクリともしない。
「死んでる…ぎゃあ!」
っと、クラスメートはテントを出た。
マイキーは涙が溢れた。
ポタっポタっと手の甲に涙がこぼれる。
マイキーはどうしようもなく切なくなり、
薄汚れてる猫を抱き上げた。
首輪をつけている。
首輪の先にあったと思われる鈴はついてない。
もう一匹の猫には鈴がついていた。
このガリガリの猫があのお爺ちゃんに変身して
自分に鈴をくれたんだ、
とマイキーは思わずにいられなかった。
胸から込み上げてくる思いでマイキーは大泣きしていた。
そこにクラスメートが入ってきて、
「この猫、夫婦やったんや。いつも一緒やったもん。
左側のキレイな方が何回も赤ちゃん生んだんやけどな、
全部、保健所とか取りにきよってな…」
クラスメートもそこまで言って泣いていた。
我が子を守れなかった父親の悲しさがあり、
悩んでるマイキーを我が子のように助けにきてくれたのかな、
とマイキーは思った。
マイキーはその後、関西で友達が増えて、
極貧ながらもなんとか生きていくことはできたそうです。
今は都内在住ですが、たまに二人で関西のあの場所に旅行で行くと、
僕とマイキーはあの猫たちにお礼を言いながら河川敷で手を合わせます。