時計と時間

2019/05/27

先輩にオカルト好きな人がいる。
先輩といっても、別におれはオカルトクラブに所属しているわけではなく、
彼がただ単に学年が上で、ただ単に近所に住んでるからよく話すだけだ。
そんな彼と、いつものように放課後、
一緒に帰りながら話していた。
俺はふと、友達から聞いたある事件の話を思い出した。
といっても、くだらない嘘の話だと思っていた。
その事件とは、ある国である物理学者が、ある時を境に一切動かなくなった。
というものだ。
その男は、時計と、机と、紙とペン、
そして窓を完全に塞いだ部屋で研究に没頭する、という変な男だった。
研究対象は”時間”。
大抵は毎日研究施設に、同僚とコーヒーを飲みに来ていた。
しかし、ある日を境に研究施設へ足を運ばなくなった。
2,3日目までは彼の同僚たちも、
「きっと何か素晴らしいアイディアを思いついたに違いない」
「研究に没頭しているのだろう」
と考えていた。
しかし1週間たち、流石におかしいと思った同僚たちが、
彼の自宅を訪れ、彼の研究室の扉を開けた。
するとどうだろう。扉を開けた瞬間に、
その男が部屋の中で崩れ落ちたのだ。
同僚たちは走り寄り、大丈夫かと問うた。
意識があった男は、
「ああ、よかった。突然全身に力が入らなくなったんだ。
丁度いい所にきてくれたね。ああ、何だ、目が痛いよ」
と礼を述べた。
「一週間も何をしていたんだ」
同僚が言うと、男は
「何を言っているんだ。君には昨日会ったじゃないか」
と。
同僚が
「何を言っているんだ。君は一週間施設に来なかったんだぞ」
と言うと、男はこう言った。
「何を馬鹿な。私はついさっきまで普通に研究を続けていた。
一週間なんぞ決して経ってない。
ほらみろ。あの時計は○日の○時を指しているじゃないか!」
そこには、日付と時間を指すタイプの時計が、
一週間前の日のある時間を指して止まっていた。
男の話からすると、男は一週間前から一切動かずその場に居続け、
同僚が部屋に入ってきた瞬間、突然倒れたのだった。
先輩に、この嘘のような話に対する意見を聞いた。
君は、例えば数億分の一秒、数百億分の一秒、
もしくは数秒、数分、例え数時間ずれた時計を見ても、
「ああ、今は何時だ」
と思うのだろうね。
普遍的な時間の流れがあるか、それはわからない。
物理学的にはあるかもしれないね。
僕は詳しくないから知らない。
でも、君は時計を見たときに、
「今は何時だ」
と考える。
それが例え、いわゆる標準時、
電波時計なんかの”正しい”とされている時間から、
数時間、半日ずれていたとしても。
つまり、ある時計が示す時間、それが君にとっての時間だ。
例えば、君が12時間ずれた時計を見て、
「ああ、今は何時だ」
と思っても、そのうち周りの環境なんかで、
時計がずれていることに気付くだろう。
じゃあ、時計が止まってたら?
君は時間が止まったと思うかい?
思わないだろう。
物の動きや音、それが進んでいるのに、
時間だけが止まったと考えるかい?
普通の人は、時間が止まれば物の動きも止まると思うだろう?
時間を止めていたずらをするなんて想像をよくするしね。
その男は、とても特別な空間にいたんだ。
動くものは時計だけ。
きっとその部屋は、外の雑音なんかも聞こえないような構造だったんだろうね。
そこに時計が無ければ、そんなことにはならなかっただろう。
物や音が進んで無くても、時間が止まっているなんて考えないから。
問題は、そこに”止まった”時計があったことだよ。
言っただろう?
”ある時計が示す時間がその人にとっての時間”
って。
男は止まった時計を見た。
男の周りには、他に動くもの、音は無い。
気付けなかったんだよ、本当は時間が進んでいたことに。
時計を見て、時間が止まっていた。
時間が止まっていたのなら、彼は当然動かない。
いや、動けなかったんだ。
全ては彼の中だけの話だよ、確かにね。
でもね、彼にとっての”時間”は止まってたんだよ。
事件の話も先輩の説明もうそ臭いとは思ったけど、
まぁ面白い考えだとは思った。
でも事件の話は、グーグルとかじゃ出てこないんだよね。

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