奇声
2019/05/25
友人Aの話。
彼が住むマンションに、
迷惑な酔っぱらいがいた。
斜め向かいの部屋の男で、
明け方近くに帰ってくると廊下で奇声をあげるのだ。
フリーデザイナーのAは
そんな時間まで仕事をしている事が多く、
酔っぱらいの奇声で集中力を削がれるのだという。
腹に据えかねたAは、ある夜、
酔っぱらいの奇声が聞こえると同時にドアを開けた。
「わわッ!!」
その男はもう一度奇声を発し、
まじまじとAの顔を見ると、
恥ずかしそうにぺこりとお辞儀をした。
……文句を言おうとしたAだが、
素面にしか見えない男に拍子抜けして、
そのままドアを閉めた。
しばらくすると向かいの部屋の男は引っ越し、
OLらしい女性が入居した。
もう奇声を聞くこともないだろうと安堵したAだったが、
年末の深夜に女の奇声を聞いた。
反射的にドアを開けると、
彼女は前の住人と同じように驚き、Aの顔を見た。
何か言いたそうにしている様子が判った。
彼女が口を開きかけたのを見て、
Aはドアを閉めた。
おそらくあの二人は、
Aの部屋のあたりに何かを見たのだ。
「変な話は聞きたくないから、
普段も会わないようにしている」
とAは言う。