出張中の父
2019/05/22
私が小学校2年生だった時の話。
私の父は出張が多く、
ビジネスホテルに泊まる事が多かった。
父は出張先では夜にお酒を飲みに出かけることが常で、
出張先から連絡をくれるなどということは
滅多にありませんでした。
携帯電話はもちろん、
テレフォンカードすらない時代です。
電話するとすれば
公衆電話から家にかけるわけですから、
用もないのに10円玉を揃えて
長距離電話などしないわけです。
そんな父が出張中のある夜、
父から電話がきました…
しかも夜の11時過ぎに。
要件は、
『仏壇にある紙に書いてある不動明王の真言を教えてくれ』
とのこと。
応対した母は訝しげな顔をしながら、
「○○(私の名前)、仏壇から紙を、
お経の書いてある紙を取ってきて」
と言い、私が持ってきた紙から不動明王の真言を探して、
電話口から父にゆっくり伝えました。
父は次の日、無事に家に帰ってきたのですが、
非常に疲れた顔をしていました。
以下は父の話です。
「昨日は酷い目にあった…
夢で鎧武者が次々に襲って来るんだよ…
逃げて逃げて…追い詰められた時に、
突然隣にいる誰かから剣を渡されたんだ…
それがすごく切れる剣でな、
それでバッサバッサ鎧武者を斬って助かったんだ…
汗だくになって夜中に目が覚めて、
ああ、あの剣は不動明王様のだって思い出したんだ。
で…電話かけてな、真言を教えてもらったんだ。
ホテルの部屋の空気がなんとなく重くてな…
真言を何度も唱えながら朝を待ったんだ」
父がホテルをチェックアウトする時に、
フロントでそれとなく聞いてみたら、
そのホテルはとある古戦場跡に建てられていたとのことです。
「いやーあるんだな…」
父は幽霊の話など一度もしたことなっかたし、
テレビの心霊特集など見ても
「くだらん」
と言い切る人だったので、
その一言は今でも鮮明に覚えています。