口 入
2019/05/14
小学校4、5年の頃だったと思う。
当時俺はカギっ子で、公団の7階建ての団地に住んでいたんだけど、
エレベーターが1・3・5・7階にしか止まらないタイプだった。
俺の家は6階だったんで、いつも5階で降りて、
1階分歩いて上がってた。
ある日、学校帰りに、友達に借りたドラゴンボールを歩きながら読んで帰った。
エレベーターに乗って、5階のボタンを押して、また読みはじめた。
ドアが開いたので降りようとして顔を上げたら、
いつもの団地の廊下ではない薄暗い空間で、すぐ前に古い鉄扉があり、
『口 入』と書かれた札が貼ってあった。
何が起こったか理解できなかった。
エレベーターの階数表示を見ると、どの階にも灯っていない。
凍りついて固まっていたら、エレベーターのドアが閉まり、
次にドアが開くと、見慣れた5階の廊下だった。
泣きじゃくりながら部屋まで駆け上がり、
母親が帰るまで布団をかぶってガタガタ震えていた。
母親に話したら、
「悪い夢でも見たんじゃないの」
と言われたけど、
しばらくは怖くてエレベーターに乗れず、
6階まで歩いて昇ってたな
当時は、鉄扉の札が「入口」の旧表記だとはわからなかったけど、
あそこで降りてしまっていたら、どうなってたんだろうと時々思う。