本文の文字サイズ

勇気が出ました

2019/04/20

僕は登山が好きだ。
連休が取れれば必ず登山に行くほどに。
僕には好きな山がある。
標高はそれほど高くないけど、
険しい道のりで毎年遭難者が出ている山だった。
道の整備が進んでいないから、
登山家の中でも敬遠されがちな山だった。
僕は人が少ないその山を大いに気に入っていた。
まるで僕だけのもののようだった。
ある休日のこと、僕はその山に登山に出かけた。
鳥のさえずりと川の流れる音がすがすがしい。
しばらく歩いていると吊り橋がある。
頂上に行くにはそこを通らなければならない。
つり橋に差し掛かったとき一人の男がいた。
男の様子が変だ。
男は手すりの外に立って、下をただ見つめている。
僕はとっさに言った。
「危ないですよ!!」
男は気づいてこちらを向いた。
僕は悟った。
男は飛び降り自殺をしようとしているのだ。
僕はさらに言った。
「あなたが死んだら、奥さんや娘さんはどうやって生活するんですか。
自殺なんてやめてください」
そんなことを言ったと思う。
俺は男の家族なんて分からない。
どこかの刑事ドラマで見たようなセリフを吐いただけだ。
男は僕のほうを見て、
「勇気が出ました」
そう言ったと思う。
僕は自殺をやめたと思った。
良かったと思った。
そのとき、男はぱっと手を離した。
男は飛び降りたのだ。
僕はすぐさま119を呼んだ。
山奥だったし、数十メートルもある谷底だ。
男は助からなかった。
後で分かったことだが、男は保険金をかけて、
事故に見せ掛け自殺したのだった。
俺は救急隊員に事のいきさつを説明した。
当然保険金は下りなかった。
後味が悪かった。
俺はそれ以来、遭難者を見ても見ないふりをしている。

にほんブログ村 2ちゃんねるブログ 2ちゃんねる(オカルト・怖い話)へ

よろしければ応援お願いシマス

人気作品

人気カテゴリ

RSS