謝り続ける声
2019/04/12
俺の友達がちょっとした成金の息子でさ、
要するにボンボンだな。
こちとら免許取るのにも必死で働いたってのに、
18でポルシェとか乗ってたのよ。
でさ。そのボンボンの家が、
とある場所に別荘を持ってるのさ。
彼女と同棲してた俺は、
そのボンボンに頼んでその別荘貸してもらったんだわ。
同棲して半年経って、刺激も薄れてきてたし、
ちょうどいいかと思ってね。
ボンボンはやめといた方がいい、とか言ってたけど、
行ってみたら結構綺麗な別荘でさ。
俺の家より豪華なのがちょっと癪に障ったけど、
まぁ二人で喜んださ。
ちょうど付き合って1年で、
記念旅行みたいな2泊3日。
俺も彼女も楽しみにしてたのさ。
別荘の周りは自然も多くて、
空気も綺麗だし、凄く安らいだ。
深夜に出発して、旅の疲れも吹っ飛ぶ、
ってまさにこの事だと思ったよ。
彼女の作ってくれたメシも
いつもより遥かにうまかったし。
で、楽しかったのはここまで。
後は悪夢。
到着した日はさ、やっぱ俺も運転で疲れてて、
彼女も長旅で疲れててさ。
早めに寝ようか、
ってことで早めに布団に入ったんだ。
んで2時くらいにふと目が覚めたのよ。
普段一度寝たら朝まで起きない俺が…
珍しいなと思って彼女見てみた。
そしたらさ。
いやこれが普通に寝てるんだわ。
ん~、何で俺起きたんだろう?って思ったんだけど、
そのまま寝る事にしたのね。
で、目閉じたら
「ご…な…い」
って聞こえてさ。
最初は彼女の寝言だと思って放っておいたんだけど、
段々ハッキリ聞こえてきてさ。
「ご…なさい」
「ごめ…なさい」
「ごめんなさい」
ってね。
こいつ、何謝ってんだ?
浮気でもしてんのか?
と思って目開けてみたんだ。
そしたらさ。
別に彼女何も言ってないんだわ。
で、俺も霊感とかある人間じゃないからさ、
有害無害とか分からなくてさ。
とりあえず謝るくらいの霊なら放っておいても平気だろ、
と思ってもう一回目を閉じたら
「助けて!!!」
ってすげぇ声が聞こえたのよ。
俺驚いて飛び起きてさ、彼女も飛び起きて。
「○○(俺の名前)、今の、聞こえた?」
で、俺はその前の「ごめんなさい」から聞いてるから、
心臓バックバクで、とりあえず頷いたの。
何か薄気味悪くなって、その日は結局朝まで起きてた。
で、異変に気付いたのはその朝だよ。
大広間みたいな、応接室?に飾ってある絵があるんだけどさ。
実は到着した日に彼女とこんなやり取りがあったんだよね。
『素敵な家ね~』
「だな~」
『中も広いし、綺麗だし』
「な?何で来ない方がいいのかわかんねーw」
『あ、見て。家族の写真。××君(ボンボン)の家族かな?』
「おー」
応接間に飾ってあった絵ってのが、家族の絵でさ。
父親、母親、お兄ちゃん?と妹みたいな、
4人で笑ってる写真なんだけどさ。
その時俺ってば、
あいつ妹なんていたっけかな~?
くらいにしか思ってなかったんよ。
話を戻すね。
その写真のさ、
女の子の顔が腫れ上がってんだ、マジに。
俺一気に血の気引いてさ。
「帰ろう、何かやっぱりここ気味が悪い」
って、予定より一日早く帰ってきたのよ。
車の中で彼女がずっと
「あの声のせい?」
とか言ってたけどスルーしてたのね。
写真に気付いてなかったみたいだったから。
で、十分離れたところでその話をしたら、
彼女も青くなってさ。
そっからはもう沈黙。
何時間も無言で運転、彼女も前見たまま。
やっと見慣れた道に戻ってきたあたりで、
お互いにホッとしてさー。
「しかし大変な旅行になっちまったなー」
『そうだねー』
「…」
『…』
「…ごめんなさい」(←無論俺たちの声じゃない)
マジで青くなった。
運転しながら目の前真っ暗になったぜ。
もしかして俺たち、
連れてきちゃった?憑いてきちゃった?とか思ってさ。
もういてもたってもいられなくなって、
速攻そのボンボンに電話したんだ。
そしたらそのボンボンも同じ体験したんだって。
話してくれた。
で、その時も同じように、
家に帰ってきてからも「ごめんなさい」が続いたんだって。
ボンボンもまだ子供だったから、
とにかく自分もごめんなさい、ごめんなさいって言ってたらしい。
で、ある時
「俺じゃないんです、違うんです」
って言ったらそれ以来「ごめんなさい」はなくなったらしい。
一体あの家で何があったのか、
それはボンボンも分からないって。
ボンボンの親父に聞いてみても、
何も知らないって返ってきたんだって。
元々あの別荘は、
その親父の友人から安く譲ってもらったんだそうだよ。
その親父の友人ってのは今は行方不明なんだと。
写真の事も聞いてみたけど、
それはボンボンも覚えてないとさ。
確認したくもないってぶっきらぼうに言われた。
以上、実害はなかったけど、
俺はとてつもなく怖かったってお話。
例の「ごめんなさい」は
ボンボンの言う通りにしたら本当に聞こえなくなった。
もしかしたら誰か探してるのかもしれないな。