シルエット
2019/03/30
いつだったか、引っ越しする前の連休の明け方。
ジュースを買いに行こうと、外に出た。
まだ外は暗く、廊下でエレベータを待っていると(マンションね)、
上のほうでガシャーンとガラスの割れる音がした。
なんだろと思って、
吹き抜けの手すりの所に近付いた。
そこからなら多少、上が見える。
見上げるまでも無かった。
黒いシルエット、
人間の上半身が垂れ下がっていた。
腕はだらりと下になり、頭はつるりとしていた。
通常なら、そんな事絶対に出来ない事が一瞬で分かる。
なぜなら、マンション1階分しか隔てていないと言っても、
乗り出して下を見下ろすほど離れては居ないから。
影を見たのは10秒くらいだったか、
やがて唾をごく、と飲んだ瞬間、
シルエットはぞわっと何かに引き上げられるように上へと消えた。
その時は怖いと言うよりも、
なんだ・・・?という気持ちが強かった。
よくあるような「長い髪の毛」の影・・・
などでは無かったから、かもしれない。
一時置いてエレベータを見ると、
既に下の階へ行ってしまっていた。
しかたない、ともう一度ボタンを押す。
そして、何気なく見た薄暗い廊下の向こうから、
滑るように近付いてくる黒いシルエット。
心臓が飛び上がる感覚と共に、
自分の部屋の鍵をポケットから取り出し、
部屋へと駆け込んだ。
チェーンもかけた。
それからは時に何も無かったが・・
あのマンションは自殺とか聞いた事の無い、
極普通の場所だっただけに、実に不可解だった・・・