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失踪

2019/03/17

大学の時、ごく短期間ですが探偵事務所でアルバイトをしたことがあります。
まだパソコンが普及している時代ではなかったので、私の仕事は顧客データの書類整理と浮気調査などでラブホテルなどに潜入する際男一人だと怪しまれるのでサクラ役でついていく程度の仕事しかありませんでした。バイト期間終了日が迫っていたある日、私は調査ある調査資料を手にし、あまりの異様さに私を雇ってくれている雇い主である探偵(元刑事)の人に「なんなんですか?この事件」と聞くと、彼は不思議な話をしてくれました。
以下、私の雇い主がしてくれた不思議な話です。もちろん実話。
彼のもとにある日年の頃30歳前後の若い女性が現れました。長距離トラックの運転手をしている自分の夫が東北へ向かう途中のドライブインで行方不明になったので探してほしいと。
失踪事件の調査はよくあること。彼はさっそく彼女の夫がいなくなったというそのドライブインへ調査へ向かいました。
そのドライブインの経営者は80以上になるおばあちゃんです。彼女の夫がもともとそこを経営していたらしいのですが、夫が亡くなった後、そこを引き継いだのだとか。
長距離トラックの運転手御用達のようなドライブインで、デコトラが何台も入るような大きなトラック専用の駐車場がいくつもあります。運転手はそこの屋根付扉付きの駐車場に車を止め、おばあちゃんのところに「××番の駐車場に入った。
×時になったら起こしてください」といいに行くと、おばあちゃんがその時間にお茶のサービスとともに起こしてくれる仕組みになっています。そこのひとつで依頼者の夫は忽然と姿を消したのでした。
トラックは駐車場にあり、運転していた本人だけがいなくなっていたのです。私の依頼主の社長はすぐ「おかしい」と思ったそうです。
場所は高速道路の真中。トラックなしで、徒歩でいったいどこへ行ったのか。
いぶかしむ彼におばあちゃんが「ああ…でもこれ関係あるのかしら?」「なんですか?なんでもいいから教えてください」「いやね、この件とはまるきり関係ないと思うんだけど、亡くなった主人から絶対に空けてはいけないって言われている駐車場があるのよ。だから普段は鍵をかけて入れないようにしていたんだけど…」別のトラックの運転手を起こしに行こうとしたドライブインのおばあちゃんは、その日鍵をかけて開かずの間にしてある駐車場の扉が開いているのを不信に思ったそうです。
すると、そこには見慣れぬトラックが。そのトラックは自分の所に「×時に起こしてくれ」と何もいってこなかったトラックだったといいます。
鍵があくわけがない。他の運転手にも聞いてみたところ、そのトラックが入る何時間前は確かに閉まっていたと証言がありました。
ではなぜ開いていたのか?運転手はどこへ行ったのか?探偵の彼は引き続き調査をおこなうことにしました。元刑事という警察のコネクションも利用して…。
数日後。失踪したトラックの運転手は見つかりました。
残念なことに亡くなっていました。瀬戸内海の、満潮になると沈没してしまう小さな隆起した岩の上で。
地元の漁師が見つけたそうです。ターゲットが死体で見つかった以上、もう探偵のする仕事は終わりです。
しかし、彼はたった数日で、しかもアシもないのに東北から瀬戸内海へ、どうやって移動したのか?なぜいきなり失踪したのか。原因をどうしても追求したくなり、元刑事の権限を利用し警察仲間に遺体の状況を問い合わせました。
すると。遺体は口から食道から胃から腸からびっしりと貝類が未消化の状態で詰まっていたという情報を得ることができました。
発見時、妊婦のように腹が膨らんでいたので、発見した漁師はドザエモンだと思ったそうです。しかし死因は溺死ではありません。
監察医の診断は「ショック死」彼の体にびっしりと詰まっていたおびただしい量の貝類はなんだったのでしょう?なぜ彼はいきなり東北のドライブインから瀬戸内海の岩の上にたった数日で移動ができたのでしょう?もうひとつ。体中には無数のひっかき傷がついていたそうです。
それは「人間、もしくは爪をもつ哺乳類につけられたらしい」傷。何もわからずじまいで彼は調査を終え東京に帰ってきたそうです。
「結局何もわからなかったんだよな」彼のあの目が今でも忘れられません。不可思議な話でした。

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