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出しそびれたラブレター

2019/03/16

A子さんには高校時代好きな男の子がいました。
お互いの気持ちも知れていて、
淡い予感を秘めていた卒業前。
彼は彼女を残して交通事故で死んでしまいました。
その5年後。
A子さんは同級生のB子さんを連れて母校を訪れました。
懐かしそうに、
しかし少し困ったような顔をしながら
校内を見て回るA子さんと、
それを不安気に気遣うB子さん。
その時、廊下の奥を誰かが横切りました。
A子さんの視線を捉えた先には、
見覚えのある少年がありました。
「…君!」
青ざめるB子さんを置いて、
A子さんはすでに走りだしていました。
追いかけてはいけない!
B子さんの制止を振り切って、
A子さんは彼の姿を探しました。
階段を曲がったと思ったら、そこにはもう姿がなく、
やっと目線の端で捉えられるような所に一瞬だけ現れるのです。
二人はいつのまにか、以前自分たちが使っていた階にいました。
その視線の先には、ひとつの教室がありました。
ドアからひらひらと手招きする手を見て、
B子さんは鳥肌がたちました。
あの教室の中に入れば、
一体どこに繋がっているというのか。
しかし、A子さんにとって
そんなことはもう頭の中にありませんでした。
例え、この先に何があっても、
あの時掴めなかった手を今とれるなら。
A子さんがあと一歩という瞬間、
B子さんが叫びました。
「お願い、連れて行かないで。A子結婚するの」
教室にA子さんが飛び込んだその時、
教室には陰ひとつなく、一通の古びた手紙が
机の上に置かれていただけでした。
彼の出しそびれたラブレターが
彼女の許に届けられたのは、
5年の歳月を経た後でした。

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