大きな古時計
2019/02/27
娘にせがまれてよく童謡を歌う。
タッチパネルに可愛い絵が描かれており、
ボタンを切り替えると、
『歌入り』と『カラオケ』の
2パターンを演奏してくれる優れ物だ。
全部で20曲程度収録されており、
これまでにすべての歌を何度も歌っていた。
ある晩のこと、
『大きな古時計』を歌ってあげていたのだが、
「天国へ昇るおじいさん、時計ともお別れ…」
の部分を歌っていると、
これまでに感じたこともないほど
強烈な悲しみに襲われ、涙が溢れ出してきた。
呆然とする妻と娘。
これまでに何度も歌ってきたのに
こんなことは初めてで、
自分でも訳が分からなかった。
それから数日経ったある日のこと、
我々の住んでいるアパートの2階の角部屋で、
お年寄りが孤独死していたことが判明。
警察が訪ねてきて、
数日前に亡くなっていたらしいのだが
何か気が付いたことはなかったか、
と妻が問われたらしい。
詳しい時間を聞くと、
どうやら俺が感情を爆発させて
涙が溢れ出した日の時間帯とほぼ一致。
恐らく、誰にも看取られることなく
天国へ旅立ったおじいさんの悲しみが、
歌を歌う俺の心に作用したのかもしれない。
それ以来何度か歌っているのだが、
こうしたことは一切起こっていない。