東側の階段
2019/02/15
あるゲームソフトの企画会社の社長から聞いた話です。
その会社は渋谷のマンションに事務所を構えています。
築三十年の古い七階建てマンションの六、七階が
事務所兼自宅になっています。
マンションには東と南に二つ階段があります。
そのうちの東側の階段での話です。
階段を三階から二階、
一回と降りていく途中、
あたりが急に真っ暗になることがあるそうです。
はい、昼間でもです。
その階段には窓はないのですが、
電灯が消えていたとしても、
普段、一階から外の自然光が入ってきているのですが。
ある日のこと、
そこの女子社員がその東側の階段を下りていくと、
ちょうどその三階から二階のあたりで、
下から上がってくる妙な親子連れに会ったそうです。
二十年位前の服装というか、
ずいぶん古ぼけた格好で、
父親らしい四十代の男性と、
息子らしい小学五年生くらいの男の子が、
手をつないで階段を上がってきたそうなんです。
二人並んで上がってくるので、
彼女は避けなければと思ったのですが、
二人は構わずに階段を上がってくると、
彼女にぶつかりました。
いえ、ぶつかったと思ったのですが、
その二人はするりと彼女の体を
突き抜けていったそうです。
「えっ!」
と後ろを振り向くと、
ちゃんと後ろに親子連れが立っています。
そして、無表情に彼女の方を向いたまま、
すっと消えていってしまったそうです。
後日、そうした分野に詳しい方とともに
その現場の写真を撮ったそうです。
目撃した女子社員が、
「大体このあたりです」
と、二階と三階の間の階段を指差して。
出来上がった写真を見て、
みんな唖然としたそうです。
多少、女子社員の指差した場所が
実際よりずれていたのでしょうか。
まるで、それを訂正するかのように、
彼女の手が白い光の球に包まれ、
そこから一本の光の筋が出ていました。
その光の指した方向が
正しい場所だったのです。
後で見せてもらった私も、
本当に背筋が凍りついてしまいました。
どうして東側の階段の、
その場所でそんなことが起こるのか、
いまだにわからないそうです。