なんにもいらない
2019/01/30
私が小6、弟が小5の頃のことです。
私はある日友達AとBに、
空き家に入って遊ぼうと誘われた。
怖いもの見たさもあって、
当時頼りにしていたしっかり者の弟を誘ったが、
何故か行きたがらなかった。
でも
「私に何かあったらどうする?お姉ちゃんがいなくなってもいいの?」
と意味のわからない事を言って強引に連れて行った。
空き家の様子はあまりよく覚えていないが、
普通の空き家だったと思う。
荒れ果てた様子のない、本当に普通の家だった。
「こんにちはー」
と言いながら、AとBがすんなり玄関に入り、
その後ろを私と弟がついていった。
奥に階段が見えた時、突然
「ダメ」
と言って弟が私の服を引っ張った。
「なん?」
と振り返った瞬間、ドシン!と大きな振動が足に伝わってきて、
私は驚いて、全身を針で刺されたような恐怖に襲われた。
続いてもう一度ガシャン!という大きな音がしたが、
振り返る間もなく弟に玄関から外に押し出された私は、
恐怖で身体が硬直して、門の所でしゃがみこんでしまった。
すると弟がBの腕を掴んで、
玄関から引きずり出すのが見えた。
グッタリしているのがわかったが、
多分私はそこで気を失ったのだと思う。
気が付いたら知らないベッドに寝ていて、
そこは近所の病院だった。
見たこともない怖い顔の母に
「バカ!」
と激しく叱られ、ごめんなさいと泣いていると、
父と弟が一緒に部屋に入ってきて、
私は父にきつく抱きしめられ、弟は母に抱きしめられた。
その夜家でその時にBが死んで、
Aが背中に大怪我を負ったことを知って、
私は怖くて悲しくて母と弟にしがみついて何時間も泣いた。
母は
「お前は悪くない。なにも悪くないから」
と何度も慰めてくれた。
何が起きたのか誰にも話してもらえず、私も怖くて聞けなかった。
一週間休んで学校へ行くと、
Bは事故で亡くなった事になっていた。
私はみんなに色々聞かれたが、
空き家のことは口止めされていたので、
「覚えていない」
としか言えなかった。
一度だけ、隣のクラスのBの机に花が飾ってあるのを見た。
私はいたたまれなくて、
そのクラスの前の廊下を通らないようにした。
Aは弟と同じクラスだったが、
Aは事故後一度も学校に来ないまま転校していった。
私は半年ほど経って、父の仕事の都合で引っ越してから、
意を決して母にあの時の事を聞いてみた。
あの家には、入って少し進んだ左の壁に
リビング用の大きなエアコンがあって、
偶然それが落ちて、その下にいたBの頭に直撃して、Bは即死だった。
さらにエアコンが落ちた衝撃で
リビングの大きなシャンデリアがAの背中に落ちて、
金具が背中に刺さって34針縫った。
シャンデリアの破片が、倒れたBに突き刺さって、
Bを助けようとした弟の靴底にも
沢山刺さっていたとの事だった。
あの時もしも弟が服を引いてくれなかったら思うと、
私はゾッとして耳を塞いでしゃがみ込んでしまった。
弟に、命の恩人だから
何でも欲しいものをあげると言ったら、
笑いながら
「なんにもいらない。お姉ちゃんがいなくならなくてよかった」
と言ってくれた。