木製の大きな三面鏡
2019/01/15
それは見るからに古く、
木製の大きな三面鏡だった。
部屋が微妙に傾いているのか、
『ギギ・・ギ・』
と少しずつ開くのだ。
何回か閉めたのだが、すぐに
「ギギ・・」
と開く。
妙にその音が気になるから全開にしておこう、
と言うことで、全開にした。
開いてみると、鏡面の端部が真っ黒なシミが付いていて、
かなりの年代物だなぁと感じた。
何となく気味悪いので、
とりあえず、バスタオルを被せた。
音も出なくなり、
俺たちは間もなく寝入った。
ふと夜中、尿意を催し、目が覚めた。
寝ていた離れには便所がないので
本家まで行かなければいけない。
邪魔臭いので朝まで我慢して寝ようとしたが、やはり無理。
『めんどくせーなー、庭ですまそーかなー。』
としばらく布団の上でゴロゴロしていた。
庭で済まそうと決意し、部屋を出て、
玄関の横で小便をした。
月明かりが妙に明るく、
澄み切った星空が綺麗だった。
やっぱ田舎っていいなー。などと思い、
そのままそこでタバコを一本吸った。
俺は女にもこの星空を見せてやろうと思い、
玄関先から女を起こそうと部屋を覗いた。
女にも見せようなんて考えるんじゃなかった。
玄関から差し込む月明かりで女の寝姿が見えた。
その奥に三面鏡。
中央の面にバスタオルを被せていて、
その右の鏡面に俺の姿が写っていた。
逆光で鏡に移る俺の表情は見えないのだが、
鏡に映る俺の後ろに誰かがいる。
いや、中年の女がうつむき加減、
半笑いの表情で鏡越しに俺を見ていた。
俺は心臓が止まる思いで、
振り向く勇気もなかった。
明らかに、この世の物でないと一瞬でわかった。
何故なら、俺自身の姿は逆光で暗く映っているのに、
その中年女は逆光、つまり影になっていない。
まるで鏡の中から俺を見ているようだったのだ。
しばらく硬直状態で目線が離せなかったが、
しばらくして中年女は半笑いのまま
鏡に映る俺の背中越しにスゥーっと消えていった。
俺は慌てて女の足を引っ張り、起こした。
寝呆け眼の女に事情を説明したが、
「どーせ私をびびらせたいんやろ!
しょーもない事言ってんと早く寝!」
とキレられた。
当然、それ以降は寝ることなんて出来なかった。
三面鏡を閉じ、タオルを何枚もつないで紐状にして、
三面鏡が開かないように結んだ。
翌朝、優しい婆さんに鏡のことも聞けず、
帰ってきました。
今でも、あの中年女の顔が忘れられない。
俺は
あの中年女に
恋心を抱いてしまった。