林の中で
2019/01/03
高校生の時、深夜、友達の部屋でしたたか飲んだ帰り、
あかりもなく人気のない、暗い市営球場わきの道を通って帰った。
すると、球場の横手にある小さな林の中で、2~3人の男の声がした。
深夜の市営球場は、同性愛者の出会いの場とも噂されていたから、
何となく噂の真偽を確かめようと思い、暗い中で目を凝らし、
林の中を覗いていると、ボオッと、やはり2~3人の人影が見える。
酔いも手伝ったか、少々大胆になり、近道をはずれて木立の方へ近づくと、
男たちに囲まれるようにして、もう一つの影が、ゆらゆらと揺れているように見える。
それも、空中に浮かんでいるように見える...。
男の中の一人が、その空中に浮かんだ人影の足に抱きついて、
ぶら下がっているようにも見えた。
木々の間を、そおっと進み、ぼそぼそとした話し声が、
聞き取れそうなくらいに近づいた時、枯れた枝を踏みつけてしまった。
バキッという音が思ってもみないほど大きく響いた。
話声がやみ、少し間をおいて、突然、笑う声が....、
それも、へらへらと、鼻で笑うような嫌な感じで。
3人の人影がこちらを向いているのがわかる。
そして、くぐもったような男の声で、「おまえもか」と、一声あった。
何やら、わけもわからず怖くなり、あわてて道へ引き返し、走って家へ帰った。
次の朝、登校すると、学校にもほど近い市営球場わきの木立の中で、
首つり自殺があり、警察官が何人かいたと、クラスのみんなが言う。
どういうことだろうか?
今もって謎だが、何人か男が自殺と見せかけて
一人の男を殺したのではないだろうかと、
公衆電話から、匿名で、その夜に見たことを通報したりしたもしたが、
特に、リアクションがあったとも思えない。
その後、同じ場所で10年くらいの間に、知る限り5回ほど首つり自殺があったが、
一昨年、市営球場が取りつぶされ、今は、あの林もない。