ネット上に存在する不思議で怖い話を
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あけてくださーい

2019/01/01

幽霊を一度でも見てしまったら、
生きていられない。
そんなものがほんとうにいると分かってしまったら、
もうトイレの扉は開けられないし、
風呂場で頭を洗うのもできないだろう。
普通に生活なんかできない。
確実に発狂する。
そう思っていた。
アパートの退去期限が迫っていたので、
俺は夜中まで作業をしていた。
電気はもう止めていたので、
部屋のなかは真っ暗だった。
あと残っている家具はベッドとテレビと絨毯、
カーテンのみになった。
掃除はまだだが、
なんとか作業完了の目処は立った。
今度住む所は近場だったので、
荷物はすべて手で運んだ。
何十往復したか分からない。
時計を見ると午前3時。
朝から20時間、
休みなしだったので腰が痛い。
脹脛は震える有様。
さすがに限界で、俺はベッドに腰掛け、
煙草に火を点けた。
3本立て続けに吸って、
しばらくぼうっとしていた。
そのとき、庭のほうで足音がした。
ザクッ、ザクッ、ザクッ、と割と早足。
庭を夜に歩く一階の住人なんかいない。
また、外部の人間が裏手の庭に入るには、
柵を乗り越えてこない限り、不可能だった。
一瞬、思い浮かんだのが、
包丁を持った泥棒の姿。
違うとしても、まともな人間ではない。
足音が俺の部屋の前まで来たけど、
カーテンが引いてあるので見えない。
(鍵、かけてたっけ…)
ちょっと焦ってドアに手をやったとき。
ドンドンドンドンドンドン!
ドンドンドンドンドンドンドンドン!
夜中にも拘らず、
物凄い勢いでドアを叩かれた。
そして、
「※※※あけてくださーい。※※※あけてくださーい」
という声。
幼い、といってもいいくらいの女の子の声。
※※※――ガラス?ハヤク?
声は大きかったんだけど、よく聞き取れなかった。
ちょっとこれやばい!
頬から、首筋、全身へと鳥肌が広がった。
霊だとしたら、
入れちゃいけないんだっけ?
慌ててカーテン越しにドアを押さえようとしたとき、
15センチほど開いてしまっているのに気づいた。
(カーテンは5センチくらい寸足らずだから、
下の方がちょっと見える)
(でていけ!でていけ!でていけ!)
そう念じて両手でドアを閉め、
カーテンの上から押さえつけた。
「でていけ!」
って声に出して叫ばなかったのは、
近所迷惑だと思ってたから。
パニクってるようでも、
意外と人間って冷静な部分残ってるもんだね。
それからあと2回、ドアを開けられた。
凄い力。
どう考えても幼女の腕力じゃない。
こっちは勢いをつけないと閉められなかった。
しかもドアはずっと叩かれっぱなし。
つまり、向こうは片手なのに?
ここでわずかに頭の片隅にあった、
「生きてる幼女説」
が、完全に消えた。
ドンドンドンドンドンドン!
ドンドンドンドンドンドンドンドン!
「※※※あけてくださーい。※※※あけてくださーい」
(でていけ!でていけ!でていけ!)
5分くらいドアを挟んで攻防が続いた。
ずーっと鳥肌消えないまんまなのが怖かった。
カーテンには、
まえに飼ってた猫が引き裂いた部分があって、
そこから少しだけ相手が見えた。
髪の位置からすると、
身長は1メートルあるかないか。
淡い暖色系の上着。
暗かったから自信ないけど、そう見えた。
その姿が消え、
ドアにかかる力がなくなってからも、
俺は全力で押さえ続けた。
去っていく足音が聞こえなかったから。
午前3時40分。
俺の部屋の斜め上に住んでる人が、
トイレに起きたらしい。
他に起きてる人が近くにいる!
その考えで呪縛が解けて、
俺はダッシュで部屋を出た。
もう手は震えてるし、
膝は発砲スチロールになったみたいに
ふわふわ、ごわごわだった。
その日は引越し先の部屋で、
電気を点けたままで寝た。
んで、今の感想はというと、
凄いことがあったなあ、くらいのもの。
風呂にもトイレにも入れるし、
普通に生活できている。

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