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汚れた黄色い靴

2018/12/26

以前、私に実際に起きた事です。
なんだか話しづらくて、あまり他人には話していないのですが・・・
当時5歳上の社会人とつきあっていて、ちょっと恥ずかしいのですが会うたびにえっちしてました。
ホテル代があまりにもかさむんで、しまいにアオカンするようになってしまいました。
私はソレのみじゃなく、えっちの前後もゆっくりイチャイチャしたかったし、
ピアスを失くしたり蚊に刺されたりで散々なので、出来れば外ではしたくなかったのです。
でも彼が「浮いた金で遊んだり、いい飯食ったりしよう」と言うので、
当時ほとんどおごってもらってた私は、あんまり文句言わないどこう、と納得していました。
その日の夜11時頃、私たちは手をつないで、場所を探して公園をフラフラうろついていました。
雑誌に載ってた串カツ屋でごはんした後だったので、普段来たことのない公園でした。
明かりが少なくて薄暗いのですが、木や茂みがあまり無いので、なかなかいい場所がありませんでした。
その段階で私は、なんとなく恐い雰囲気がする公園だと感じていました。
そのうち彼が、
「あそこでやっちゃう?」
とふざけた感じで言いました。
公衆トイレだったのですが、見た瞬間、寒々しい気持ちになりました。
「なんかこんなとこでするの嫌だよ」
と反対したのですが、彼は嫌がると余計やる気が出てしまうらしく、
とっとと連れ込まれてしまいました。
男子トイレの個室に入るという事自体がなんとなく嫌だったのですが、
不安感と嫌悪感が強まったせいか、変に感覚が研ぎ澄まされて、
普段は多分気付かないのに、かすかに足音がするのに気付きました。
彼は、私がローになってるので興奮させようと
キスしたり触ったりしてきたのですが、私は彼の腕を掴むと、
「ねえ、足音する」
と声をひそめて言いました。
「そうか?別にしてねえよ」
「ちょっと静かにしてみて。さっきから近づいたり遠くなったりしてるから」
服を直して、2人でじっとしていると、
やっぱり足音がして、また遠のいていきました。
しばらくすると、また・・・
「・・・・このまわりをぐるぐる廻ってない?」
私は震えながら小声で言いましたが、彼は
「なんも聞こえねえけど・・・覗きかなあ、静かにしてればいなくなるんじゃねえの?」
と平気そうでした。私はトイレのドア側に視線を落としました。
そして息をのみました。
小さな子供の靴が見えました。
クマの顔がついた汚れた黄色い靴が、ドアの下の隙間に、
こちらを向いて2つ見えたのです。
私は口を手でふさいで、無言でその靴を指差しました。
彼は指差した方向を見ましたが、なぜか「それが何?」という顔をしています。
靴は右、左とうろうろ歩いて、急にスッと離れていきました。
人の気配も無くなったので、
「もう無理!ここ出よう!」
と彼に半泣きで訴えると、
「なんだよしょうがねえなあ・・・・」
と彼は鍵を開け、少し開けて見て、
「なんともねえよ」
とドアを全開にしました。
その向こう側を見て、私は声にならない金切声のような、悲鳴をあげてしまいました。
手洗いの鏡の上のほう。そこに赤いクレヨンらしいもので、子供の落書きがありました。
2人の男女らしい、顔。
その日、私は髪をアップにして上で毛先を散らす髪形にしていたのですが、
女の髪は、たどたどしい絵でその髪型をまねたように見えました。
ヒステリーのようになって、恐さのあまり泣き出した私を持て余し、帰りの電車で彼は、
「気付かなかっただけで、落書きは最初からあった」
「全部おまえの気のせい」
「結局なにもされてないし」
と私を諭していたのですが、
「あんな鏡の上の方に子供の手届かないし、最初私トイレ入った時、
ここ大丈夫かと思ってキョロキョロ見た。落書きは絶対なかった」
等と私がひとつひとつ言い返しているうちに、おかしなことに気付きました。
子供の靴のことを言った時、彼が「靴?」と聞き返してきたのです。
どうやら私が靴を指差していた時、彼にはその靴が見えていなかったらしいのです。
それを知って私は余計に恐くなりました。
それから半年程して私たちは別れました。
さらに1年が過ぎ、最近、友達と待ち合わせしている所に偶然元彼が現れ、
気まずいながらも「元気?」「最近どう?」と会話をかわしたのですが、彼は
「また時々会ってえっちだけでもする?」
等と言い出しました。
「今つきあってる人いるから」
と答えると、
「おれも彼女できたよ。別にいいんじゃないの?」
と普通に言うのでむかついて、その後目をあわさずに
顎や首のあたりを見ながら喋っていたら、彼の肩に何かが乗っているのに気が付きました。
えっと思って凝視すると消えていくのですが、
曖昧に見てるとぼんやりと、顔のような形が浮かんでくるのです。
生まれたばかりの新生児のような、逆にしわくちゃの老人のような・・・・
不気味に思ったのですが、本人は気付いてないみたいだし、
もう関係ないからいいや、とそのままバイバイして友達のところへ行きました。
友達は少し前から私たちが会話してるのを離れて見てたらしいのですが、彼が去った後で私に、
「さっきの人さあ・・・肩になんか乗ってた?」
と恐る恐る聞いてきたのです。
「ああ、なんか小さい顔みたいの?」
と私が言った途端、友達はホッとしたように、
「なんだ~やっぱりふざけて乗せてたんだ~気味悪いから、
あたしなんか恐いもの見えちゃってるのかと思って焦った~!」
と笑い出しました。
私も適当にあわせて笑い、すぐに話題を変えました。
見えている人が何人かいる。
でも、これからも彼は見えないし、気付かないんなら、それでいいのかもしれない。
私にはもう関係ないです。
本人が何も感じなければ、いないのと一緒だろうし。
だけど。
・・・・・いつか彼も見える時があるんだろうか。

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