満面の笑みの写真
2018/12/24
学生時代の友人から急に電話があった。
記憶の中では彼女は気丈な子だったが、
そのときは声が弱々しく震えていた。
「うちの父親のことなんだけど」
その切り出しに、
私は思わず居住まいを正す。
彼女のお父さんは
2~3ヶ月前に亡くなったという知らせを聞いていた。
今どき珍しく、彼女は父親っ子だった。
話の先を促したが、
電話では伝え難いことらしい。
数日後、話を聞くために喫茶店で彼女と会った。
もともと細い子だったが、
少し頬がこけたようだった。
他愛のない近況報告ののち、
おもむろに彼女は一枚の写真を取り出した。
中年女性が2人と、
若い女性と彼女の4人が写っている。
みな喪服姿だった。
彼女とその姉、母親、叔母らしい。
「父親のお葬式のときの写真だと思う。」
彼女はそれきり何も言わなかったが、
一目でその写真の異常さはわかった。
一様に俯き、
目を赤く腫らしている女性たちの中で、
彼女だけが笑っていた。
それも満面の笑みで。
その曇り一つない笑顔は、
なぜか非常に禍々しいものだった。
ふと、どうしてこんな写真が存在するんだろう、
と疑問に思った。
葬式の日に写真なんて撮るものだろうか。
その写真は彼女の父親の遺影がバックに小さく写っている。
その前景として
彼女以外の3人はバラバラのほうを向いて、
動き回ってるようだった。
忙しそうな様子から察するに、
葬式の最中ではなく前後だろう。
彼女だけがカメラ目線。
「これは誰が撮ったの?」
わからない、
と言って彼女は首を横にふった。