ぬいぐるみ
2018/12/07
父と母と娘と、一人の召使いがその家に暮らしていた。
両親は一年の三分の一を留守にするほど仕事に忙しかった。
娘の相手さえ出来ないほどに。
その代償として、両親は娘にぬいぐるみを何個も与えた。
娘はそのぬいぐるみに両親の愛を感じた。
仕事のため家を空け、お互い会う事すらない日々が続き、
夫婦の間に亀裂が入るのには、そう時間はかからなかった。
娘への愛もいつしか薄れ、
ぬいぐるみを贈るのもただの習慣となった。
それでも娘はそれを愛の印だと信じて疑わなかった。
家にいる時両親は、娘に辛く当たるようになった。
やがて召使いもそれを真似するようになり、
両親が仕事に出てからも、
娘は苦痛の中で日々を過ごすようになった。
人の心にある醜い感情を知らない娘は、
何故皆が突然自分に辛く当たるようになったのかわからなかった。
「ねえ、なんで私を叩くの?悪口を言うの?
お父様もお母様もお前も。
みんな私を愛してくれていたのに…何故突然?」
召使いはあまりにも無知な娘に答えた。
「貴方に対して愛を持ってる人なんてもう誰もいないんですよ」
言葉の後、召使いは娘を殴った。
裕福で美しい娘に以前から感じていた嫉妬のせいもあった。
娘は抵抗し召使いを突き飛ばした。
召使いは頭を打ち死んだ。
無知な娘は死すら知らず、何があったのかよくわかなかった。
動かなくなった召使いを見ながら娘はぼんやりと考えた。
皆は私に対する愛がなくなった。
どこかに愛を置いて来てしまったのだろうか?
どうすれば皆元に戻ってくれるのだろう?
愛を体に詰め込めば、
また幸せな日々が帰ってくれるだろうか……?
そうだ、昔のお父様やお母様の愛の詰まったぬいぐるみの中身を、
皆の中に詰め込めばいいんだ!
娘は良い事を思いついたと、とても喜んだ。
娘は母の部屋にあった小さな刃物でぬいぐるみの腹を裂き、綿を出した。
このフワフワとした物が両親の愛なのだと娘は思った。
次に、召使いの服をめくり腹を切ったが、上手く切れない。
娘は台所にあった、
豚などを解体する時に使う大きな刃物を持ってきて
それで召使いの腹を切り開き、中に綿を入れた。
血がだらだらと出てきたが気にしなかった。
次の日に調度いいタイミングで両親が帰ってきた。
娘は両親の腹を刃物で刺した。
苦しみに倒れる両親の腹を娘は切り開き、
ぬいぐるみの綿を詰め込んだ。
部屋の隅には昨日死んだ召使いの死体が転がっている。
娘は笑顔で三人を見た。
愛をたっぷりと詰め込んだんだから、
これで皆また私を愛してくれるはずだわ。