覗く女
2018/11/30
高校入って直ぐ位のときに住んでた
築年数20年くらいの一軒屋だったんですが、
当時まだそれほど普及してなかった
ダイヤル回線のインターネットで友人達と
チャットで話をしてたんですよ。
時間は午前2時くらいかな。
んでちょっと喉が乾いたんで
『なんか飲んでくる』
って言って階段降りて1階の奥にある台所まで
麦茶を飲みに行ったんだけど、
二階から階段おりるとすぐ玄関の扉の前におりていって、
階段降りきったところに玄関と玄関の外の明かりの電源があるような造りになってて、
まぁもう数年は住んでる家なんで勝手知ったるって感じで、
そのまま麦茶を飲んだんですよ。
人間ってのは面白いもので、
日ごろ住み慣れた場所で何か違うものがあると
すぐ違和感とかを感じてしまうらしいんですが
(職場で自分の机のレイアウトなんかを
他人に変えられるとすぐ気が付くように)
二階にあがろうとして玄関前まで来たときに、
なんか変だなって思ったんですよ。
ウチの玄関の扉ってのが、木造の古い家のせいか
かなり重厚なつくりになってて、
高さも190から2mくらいはあったんじゃないかな。
それでその上にはめ込み式のまどがあるんですが、
そこから覗き込んでるんですよ、女が・・・
玄関は一段高くなってるんで、
実際窓から中を覗き込むには身長2.2mは必要だと思うんですが、
しかも深夜なんかに、よく怖い小説なんかで能面のような
なんて表現がありますが、その時にその表現を理解したって言うか、
人間の顔をしてるのに表情が無いだけ
でこんなにも異質なモノみたいな感じになるのかと思いましたね。
それがこっちを観ているのではなく、部屋の中の壁を覗き込んでいました。
悲鳴すら出せないほど驚いてしまい、
そういうときの人間の行動ってのは割と単純になるのか。
自分の部屋に逃げなければと思い
ゆっくりと階段のほうへ歩を進めていきました。
日ごろ無意識のうち
(って言うか日常に組み込まれてしまった行動)
っていうのは恐ろしいもので、
自分でも考えてないうちに階段の近くにある
玄関の灯りのスイッチを押してしまったんです。
極度の緊張のせいか、それとも日ごろは意識してないから
わからないだけなのかは正直わからないですが、
あのスイッチってのは押したとき結構大きな音がしました。
『しまった!!!』
っとおもった時にはもう遅く、
無表情で壁を見ていたその女性がその瞬間勢いよくこっちを向いたんです。
もうそのあとは無我夢中で、
かなり大きな音を立てながらはいずり上がるように階段を上がり、
半ば腰を抜かした状態で部屋に逃げ込み、鍵を掛け、毛布をかぶっていました。
布団の中でどれくらいたったかはわかりませんが、
とにかくようやく少し落ち着いてきて、
『自分の部屋だしそれに外から中を見ていたんだから、
幽霊にせよそうでないにせよ中までは入ってこないだろう』
などと多少安心していました
(すぐ隣の部屋には兄もいたので)
先ほどまでやっていたチャットを再開し、
なかなか戻ってこないのでどうしたかと
心配してくれていた友人達に今あった出来事を話していると、
トン・・・トン・・・トン・・・・・・・っと
階段を上がってくる音が聞こえてきた。
結構大きな音を立てて階段を駆け上がったことを思い出し、
まぁたぶん階下で寝ていた両親のどっちかが
何事かと思い上がってきたのかな?とも思いましたが
さっきの出来事が頭をかすめ、出るに出られないでいると、
階段を半分くらいあがったところで降りていくような音が聞こえてきました。
『まぁなんでもないと思って部屋に戻ったんだろう』
と勝手に解釈をし、再びチャットを再開しようとすると、
また階段をあがってくる音が聞こえてきました。
トン・・・トン・・・トン・・・・・・・
さすがにおかしいと思い、さっきの体験が思い起こされます。
さすがに、家の中まで入ってくるなんて事は・・・
とは思うものの楽観はできません。
そのまま階段を上りきり、
恐らく今ナニカが自分の部屋の扉の前にいます。
そのまま数秒・・沈黙の時間がありました。
両親なら
『何かあったのか?』
とでも聞いてくるはずなのに、
そのまま沈黙は続きました。
どれくらい沈黙の時間が流れたかはわかりませんが、
その緊張も限界に近づき、
ふいに大きな声で『誰?』と叫んでいました。
・・・・・・・・何の返答もありません・・
『トントン』
と扉を唐突に叩いてきました。
緊張が張り詰めて息が苦しくなってくるのがわかります。
その頃はまだ携帯なども持っておらず、
今の状況を打開してくれるようなものもありません。
かと言ってこの状況を無視することも出来ず、
またさっきよりも大きな声で叫びました。
『だから誰だよ??』
するとまた、少しの沈黙のあと
『ドンドン』
っと、さっきより少し強めに扉を叩いてきました。
もういてもたっても居られずに毛布に包まり震えていました。
扉の向こうのナニカは、まるでこちらが見えているのかのように、
もう返答できないのをわかっているのか、ドアノブを回しはじめました。
『良かった、鍵がかかっているから入れないだろう。』
さっき外にいたモノが鍵のかかった玄関を
ものともせずに中に入ってきたという現実を忘れ、
これで助かると本気で思いました。
すると、ドアが開かないのがわかったのか・・
『ドォン!!』
まるで扉が壊れるかのようなものすごい音が鳴り、
それっきりまるで何事も無かったかのように辺りはシーンと静まり返りました。
さすがに、扉の向こうから居なくなるような音も聞こえなかったので、
小一時間ほど警戒していましたが、次第に平静を取り戻し、
これで朝になってしまえば大丈夫だと自分に言い聞かせ、
なんとか眠ることにしました。
・・・・そして
パソコンの電源を落とし、電気を消した瞬間、
二階であるはずのこの部屋のベッドのすぐ横にある窓を
開けようとする髪の長い女性の影と、
ガリガリと引っかくような音を聞き、
私はとうとう気を失いました。
次の日、消したはずのパソコンの電源が点いており、
掛けておいたハズの部屋の鍵が開いており、
しかも隣の部屋にいた兄や階下で寝ていた両親は何の物音も聞いていない
(兄は4時ごろにおきてトイレに行ったらしいが、
その時既に私の部屋の灯りは消えていたという)
と、悪い夢でもみたんじゃないかと思いそうになったが、
次の日に友人から『昨日はあのあと平気だった?』と聞かれたことと、
窓の外側の端っこに残った引っかきキズと、
赤いアニキュアのようなモノによって、
否応無しに現実だったと思わされます。