忍者ごっこ禁止令
2018/11/14
私が保育園児だった頃の話。
両親は共働きで朝早くから出ていたので、
私を保育園まで送るのは当時存命であった祖母の役目だった。
祖母が化粧をしている間に暇を持て余した私は、
しばしば『忍者ごっこ』で遊んでいた。
なんて事は無い、祖母の部屋のふすまを開けて
その前の廊下を走って往復するだけの遊びだ。
ドタドタ廊下を走りまわっては、
「今の見えた?」
などと祖母に聞いていた。
そもそも祖母は廊下に背を向けて化粧をしていたため、
私の方を見てはいなかったのだが、
飽きもせず走り回る私に付き合い、
「見えなかったよ。今日の忍者さんは足が速かったねぇ」
などと言ってくれていた。
ある日、祖母から
「忍者ごっこをやめなさい」
と言われた。
理由を聞くと、床が傷むとか、
仏間につながる廊下だから足音でうるさくしたらいけないとか、
そういう理由だったのだが、
なかなか言う事を聞かない私に祖母はこう言った。
「そこの廊下は私ちゃんが忍者ごっこをしていない時でも、
時々誰かがおなじような事をしている。
私ちゃんは廊下を行ったり来たりするけど、
その忍者はいつも仏間の方に行ったきり帰ってこない。
私ちゃんもいつかそうなってしまう気がして」
そういえば、なんでこんな遊びをしようと思ったのかすら、
私には分からない。