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旅館のトイレ

2018/11/12

夏に友人二人と一泊二日で海に行った。
とりあえず一通り泳いで旅館に行ったんだけど、
俺達が泊まる旅館っていうのが随分とボロい。
安かったし、
ボロいのも分かってはいたけど、
正直想像以上。
壁が薄くて隣の部屋の声は普通に聞こえてくるし、
一番困ったのが部屋にトイレが無いこと。
いちいち数十メートル先のトイレまで
行かないといけないのは本当に面倒臭かった。
それでもそこに泊まるしかないし、
諦めて適当にくつろいでたんだけど、
夜遅くになると、誰から始めたのか思い出せないけど、
百物語をしようってことになった。
百物語って言っても、
三人しかいないわけだし、
実際二十話ほどしか話してないと思うけど、
その途中で友人の一人が変なことを言い出した。
俺の後ろにある押入れが勝手に開いた、と。
確かに後ろを見てみると、
5cmほど押入れが開いてる。
俺は友人が場を盛り上げようと
嘘をついたんだと勝手に解釈してたけど、
今思うとこれも本当の話だったのかもしれない。
話をしているうちに深夜2時頃になって、
寝ようということになった。
俺も寝ようとしたけど、なかなか寝られない。
その後、俺は酒を飲み過ぎたこともあって
トイレに行きたくなってきた。
さっきも話した通り、
この旅館には部屋ごとのトイレがない。
トイレに行こうと思えば、
数十メートル先のトイレまで行かなくてはならない。
あんな話をした後だし、
一人で行くのは嫌だったんだけど、
友人について来てくれって言うのも恥ずかしいし、
仕方なく一人で廊下へ。
廊下に出たら真暗。
廊下の電気は10時には消されるらしい。
びびりながらもなんとかトイレに辿り着き、
トイレの電気をつけ、急いで用を足し、
早く部屋に戻ろうと思ったその時、
俺の背後に気配のようなものを感じた。
振り向くと、
一番奥の個室の扉が僅かに開いている。
見なければよかったと思いながら、
急いで視線を別の場所へ移そうとしたけど、
その瞬間、俺は見てしまった。
トイレの個室の中、確かに人影があった。
俺が来るまで電気はついていなかった。
ということは、俺以外誰もいないはずだ。
俺はとにかくその場所を見ないよう、
電気も消さずに部屋まで走った。
その日はそのまま寝たんだけど、翌日、
友人に起こされ、布団から出ようとした俺は
足に痛みが走るのを感じた。
何だろうと布団をどけ足を見ると、
そこには2cmほどの刃物で切ったような傷があった。
布団にも少しだが血がついている。
昨日までは絶対にこんな傷はなかったのに。
その時はマジでびびった。
その日も泳ぐつもりだったけど、
友人に無理言って泳がずに帰ることにしてもらった。
あれから一週間ほどで傷は治ったけど、
二度とあの旅館には行きたくない。

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